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運転席に座る宮本さん(東洋経済オンライン編集部撮影)

運転席に座る宮本さん(東洋経済オンライン編集部撮影)


もともとアウトドアやキャンプが好きなことや、高校時代からバンライフにも憧れていたことも大きな要因だ。

ホンダの軽商用バン「アクティ」をレンタルし、約1カ月間、東京~和歌山間をのんびりと走る車中泊の旅に出た。高速道路を走ることも、クルマの中で寝ることもはじめてながら、行きたいところや見たい景色を自由に楽しめる、気ままな旅を満喫した。

就職するか?好きなことをするか?

就職について考えるようになり、バンライフを決意した宮本さん(東洋経済オンライン編集部撮影)

就職について考えるようになり、バンライフを決意した宮本さん(東洋経済オンライン編集部撮影)


旅から帰った宮本さんは、再び学業に専念するが、2021年春頃に自分の進路について考えはじめる。1年後には就職活動がはじまるからだ。大学へ同年度に入学し、通常の4年制コースを選択した友人たちは、すでに就職活動をはじめていた。

多くがかなり苦労し、中には「鬱病になりそうな友人もいた」という。宮本さんは、日本と中国の大学で計5年間学ぶコースだったため、友人たちより1年猶予はあったが、その大変さを知り、「自分も将来を考えなければ」と思ったという。
 
「最初は、貿易会社への就職を考えていました」という宮本さん。中国語だけでなく、高校時代にアメリカへの留学経験もあり、英語もできるため、貿易会社なら得意の語学を活かせるなどの理由からだ。

ところが、あるとき、ふと知り合いに将来の進路についてたずねられた。宮本さんが就職活動をするつもりであることを伝えると、知人は「意外だね。芽依ちゃんは、フリーランスになって、仕事しながら世界中を旅するのかと思った」と言った。

「返す言葉がありませんでした」と宮本さん。「自分は、好きなことをして生きて行きたいと思っていたのに、いつの間にか、周囲と同じ流れにのってしまっていた」と感じたからだ。そこで再度、自分がやりたりことを考えた宮本さんは、昔から憧れていた「バンライフをやってみよう」と決意。

「いつか所有したい」と思っていた自分のキャンピングカーを手に入れることを決める。買えば高価なキャンピングカーだが、「自分で作ればなんとかなるかもしれない」と、自作することを決めた。

愛車を手に入れた経緯を語る宮本さん(東洋経済オンライン編集部撮影)

愛車を手に入れた経緯を語る宮本さん(東洋経済オンライン編集部撮影)


「上海の大学にコロナ禍で行けなくなってしまったように、いつか買うと思っていても、その『いつか』がこないかもしれない。だったら、今、手に入れよう」

キャンピングカーを作るといっても、ベース車両は必要だ。そこで早速、資金集めをははじめる。当時、ちょうど開催されていた「東京オリンピック2020」で、得意の語学を活かし、海外からの来訪者など向けに通訳をするアルバイトで資金を貯める。2021年夏前頃に、約60万円で中古車を購入した。

次は、キャンピングカーへのカスタマイズ。だが、通訳のアルバイトで貯めたお金は、クルマの購入で消えた。そこで、思い切ってクラウドファンディングを利用。自作キャンピングカーを作る支援者を募ったところ、約120万円が集まる。リターンのグッズ代などを差し引いて、約100万円弱が手元に残った。資金ができたことで、2022年の年末頃から、冬休みを使ってキャンピングカーの自作に挑戦する。

キャンピングカーをDIYするときの苦労話

学生らしく、壁にはホワイトボードも(東洋経済オンライン編集部撮影)

学生らしく、壁にはホワイトボードも(東洋経済オンライン編集部撮影)


キャンピングカーを作るといっても、クルマのカスタマイズどころが、もともとDIY自体が得意でなかった宮本さんは、製作にかなり苦労する。

作業場所は、建設会社を経営する知り合いの社長さんが、会社の敷地を貸してくれてなんとかなった。だが、木材のカットや加工をする電動工具を使うことすらはじめて。宮本さんが「師匠」と呼ぶ敷地を貸してくれた社長さんに、使い方などを教わりながら作業を行う。

「やっていることが正解なのかもわからなかったので、とても不安でした」という宮本さん。最大のピンチは、室内を作り替えるためにベース車の内装を剥がしているとき。間違ってルーフにあるフレーム部分を無理やり取りはずしてしまったのだ。そのままでは、車体の強度が出ず走行できない。慌てて付け直し、なんとか修復できたが、「かなり冷や汗ものでした」という。

また、キャンピングカーに関する知識もなかったため、イチから自分で調べた。前述したインテリア業界の流行などもこのときに学んだものだ。さらに、自作キャンピングカーを車検に通すための細かい要件なども徹底的に調べる。最後には、自分で陸運支局の車検場までクルマを運び、自ら検査も受け、見事2022年4月にナンバーを取得した。

屋根部分にはソーラーパネルも設置(東洋経済オンライン編集部撮影)

屋根部分にはソーラーパネルも設置(東洋経済オンライン編集部撮影)


苦労して愛車のキャンピングカーを完成させた宮本さんは、2022年の夏休みに北海道でクルマ旅を楽しんだあと、大学生活へ戻り、キャンピングカーを拠点とした生活をはじめる。

大学では、コロナ禍が落ち着いてきたことで、授業もオンラインから教室での対面形式に戻ったが、取材した2022年10月末現在では、ほぼ授業も終わり、週に2泊3日のペースで卒業論文のために大学へ行くだけとなった。

そこで、愛車を停める場所として、前述の車中泊スポットを利用。クルマで寝泊まりし、食事やシャワーなどは、同じく近くにあるシェアスペースを使う。大学に行かないときは、これも前述のように千葉や山梨などでキャンプ。ほとんどがクルマでの生活。だが、不便に感じることはないという。

「実家が東京にあるので、服などはたくさんクルマに積まなくてもいいですし、そもそもあまり持っていない(笑)。衣替えのときに取りに行くなどをすれば、十分ですね。ほかの同級生のように、飲み会にもほとんど行かないし。もちろん、人によってはこうした生活が合わない人もいると思いますが、私はぜんぜん平気です」

アウトドア好きの友人などには、宮本さんの生活に興味を持つ人もいるようだが、実際にやろうという人はいないのだとか。ほとんどの学生がアルバイトしたお金で、友だちと遊んだり、飲み会に行ったり、好きな服を買うほうを選ぶという。

バンライフをしながら考える将来

「東京にいると、知らないうちに用事がたくさん入ってしまうし、情報も多く、疲れるときがあるんですよね。心を休ませる時間が普段あまりないんです。もちろん、友だちと遊んだりすることも楽しいけれど。多くの人が、そのとき、自分が本当にやりたいことに気づいていても、無視してやらないんです」

バンライフをはじめる前、宮本さんが感じていた都会の生活だ。

バンライフの魅力を語る宮本さん(東洋経済オンライン編集部撮影)

バンライフの魅力を語る宮本さん(東洋経済オンライン編集部撮影)


「一方、バンライフであれば、都会の生活に疲れたときに、山の上や海の前にクルマを停めて、夜に車中泊をしながら、自然の音や自分の声に耳を傾けることできる。自分に素直になれる時間が持てるんです」

宮本さんは、今後、キャンピングカーを基軸とした活動を行うことで、「(日本でまだあまり馴染みのない)バンライフという生き方を広めていきたい」という。

2023年3月に大学を卒業予定の宮本さんは、就職活動を辞めた。「自分で会社を起業したい」と語る。今、考えているのは、コロナ禍の入国規制などが緩和され、急増している訪日外国人向けに、キャンピングカーを使ったツアー会社だ。

日本の美しい景観や歴史ある建物などを多くの外国人にも伝えたいという。また、将来的には、キャンピングカーを自作した経験を活かし、キャンピングカーのデザイン会社もやってみたいという。いつかはオリジナルのキャンピングカーを作り、販売することも夢見る。

これから社会に出るバンライフ女子大生にエールを

愛車の日産キャラバンと宮本さん(東洋経済オンライン編集部撮影)

愛車の日産キャラバンと宮本さん(東洋経済オンライン編集部撮影)


これから社会へ羽ばたこうとしている宮本さんの今後が楽しみだ。今まで学校生活で得た知識はもちろん、バンライフを通して得た気づきや、車中泊やキャンピングカー自作の経験などを活かし、どう生き、どのように成長していくのだろうか。

どんな生き方をするにしろ、人生には苦難を乗り越えなければならないときもある。とくにバンライフの根幹にもある「自由な生き方」や「自分らしく生きる」ことには、「普通の生き方」ほど楽でないことも多いだろう。そんな人生を選んだ宮本さんをはじめ、「挑戦するすべての若者たち」にエールを送りたい。



平塚直樹=文
東洋経済オンライン=記事提供

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