「藤井隆行の視点。私的傑作批評」とは……▶︎すべての写真を見る 先日のロンドン出張の際、ブランド名の由来にもなったサヴィル・ロウに程近いザ・ロウのショップで、このランニングスニーカーを見かけました。
一見するとオーソドックスな白スニーカーですが、よく見るとソフトメッシュの部分はオフホワイト、スエード部分はグレイッシュホワイトという微妙な色の組み合わせで、ヴィンテージ加工しているわけじゃないのに、まるでシューズボックスにずっとしまってあったかのような馴染みの良さ。
アウトソールのグリーンと、白やベージュなど4色を絶妙に組み合わせたミドルソールがアクセントになっていますが、アッパーにはアルファベットやロゴ、ラインなどがいっさいないシンプルなデザイン。
僕もスニーカーをデザインしたことはありますが、何も入れないというのはかなり勇気がいること。下手をすると間の抜けた印象になるところを、デザインとしてここまで完成させているレベルの高さに驚きます。
普通のローテクスニーカーに見えて、すごくいい生地を使っているし、見ればみるほど味わい深いんです。
2022年秋に発売された、機能性ソフトメッシュとカーフスキンスエード製のランニングスニーカー「オーウェン・ランナー」。グリーンのレースのほかに、アッパーと同系色のレースのオプション付き。12万1000円/ザ・ロウ(ザ・ロウ・ジャパン 03-4400-2656)
こんなスニーカーがいつも玄関に並んでいたらいいな、とつい想像してしまいます。
持っている靴はこのほかに、ローファーとショートブーツなど全部で5足くらいだけで、履きつぶしたらまた同じものを買う。そういうスタイルが、本物のラグジュアリーじゃないかと最近思うんです。
服やバッグもそうですが、ブランドロゴがどーんと入った威圧感のあるラグジュアリーよりも、シンプルで上質なものを見極め、それを使い続けることのほうがずっとラグジュアリーなんじゃないか。
ザ・ロウのショップはどこも、置いてある家具やアートだけ見ても、削ぎ落とすことで到達するラグジュアリーの精神がわかります。成熟したお金持ちが行き着く先は、もしかするとスティーブ・ジョブズみたいに同じ服を100枚持っているような境地なのかもしれないですね。
あれもこれもいらない、丁寧に作られたシンプルなこの1点さえあれば。きっとそういう人が選ぶスニーカーなのではないでしょうか。
[藤井隆行 プロフィール]東京を代表するブランド「ノンネイティブ」のデザイナーで、ファッションからライフスタイルまで一貫したこだわりを持つ。「年末年始は奈良への帰省に、EVカーで行ってみようと日々YouTubeで研究中。長距離が走れるようにインフラが整ってほしいです」。
「藤井隆行の視点。私的傑作批評」とは…… 世の中のありとあらゆるプロダクツから、「ノンネイティブ」藤井隆行さんが独自のセンスと審美眼でモノをセレクト。デザインとは? 実用性とは? 買い物の醍醐味とは? ブランド名や巷の情報に惑わされず、本当に自分に必要なモノと出会う方法を指南。
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