「藤井隆行の視点。私的傑作批評」とは……▶︎すべての画像を見る 九角形の傘が特徴的なこの木製電気スタンドは、「鳥取民藝の父」と呼ばれる吉田璋也が1932年にデザインしたもの。当時ヨーロッパはアール・デコの時代で、おそらくその影響を受けたデコラティブな造形が面白いです。
光がきれいで、支柱の部分が伸縮するため、高さを変えて光の具合を調整することもできます。
吉田璋也は医師でもあり、いつもツイードのジャケットを着ているおしゃれな人だったそう。
柳宗悦が提唱した民藝活動に賛同し、民藝を生活に取り入れようと陶芸をはじめとするさまざまな工芸をサポートし、民藝の製品を扱う「鳥取たくみ工芸店」や、のちに民藝の家具や器とともに地元の料理を味わえる「たくみ割烹」も創業しています。
衣食住、つまり今でいうライフスタイル全体に精通した人ともいえますね。
90年間、鳥取で作られ続けている名作デザイン。木製部分はケヤキと栗で、傘は鳥取の名産である因州和紙を使用する。写真の大サイズは伸縮式だが、小サイズ(φ29×H37cm)は伸縮しない。φ36×H44〜62cm 17万5000円[予価]/鳥取たくみ(鳥取たくみ工芸店 0857-26-2367)
吉田璋也がデザインしたこのライトは、小津安二郎の映画にもたびたび登場しているし、京都の河井寛次郎記念館には、ペンダントタイプのライトが飾られています。
ここは陶芸家・河井寛次郎が自分で設計した自宅兼工房を当時のまま保存した建物ですが、古民家なのにとてもモダン。去年訪れたときには、河井寛次郎のお孫さんから、シャルロット・ペリアンが訪ねてきたときの話などを聞かせていただき、いろいろつながっていることに感銘を受けたのでした。
余談になりますが、映画『男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋』では、河井寛次郎をモデルにした陶芸家が登場し、この記念館を自宅としてロケをしていました。
寅さんが酔っ払って泊まってしまい、翌朝目覚めるとそこにヒロインのいしだあゆみさんがいるというシーンも。
河井寛次郎もまた、柳宗悦や濱田庄司らとともに民藝運動を推進した人。美術品として扱われることを嫌い、あるときから自分の作品に名前を入れなくなったそうです。なぜなら器は多くの人が生活の中で使うべきものだから。
吉田璋也も彼らも「生活のデザイン」ということを基本に考えていて、それは僕の仕事とも近いのかなと思います。
使いやすく、とても綿密に考えられているのにすっと生活に馴染む。そういった民藝の価値観に共感します。
[藤井隆行 プロフィール]東京を代表するブランド「ノンネイティブ」のデザイナーで、ファッションからライフスタイルまで一貫したこだわりを持つ。「またまたやってきた第7波。もうとにかく免疫力を高めて体力をつけるしかありません。走るのに加えて予防学である漢方を勉強中」。
「藤井隆行の視点。私的傑作批評」とは…… 世の中のありとあらゆるプロダクツから、「ノンネイティブ」藤井隆行さんが独自のセンスと審美眼でモノをセレクト。デザインとは? 実用性とは? 買い物の醍醐味とは? ブランド名や巷の情報に惑わされず、本当に自分に必要なモノと出会う方法を指南。
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