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2022.12.29

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呂布カルマとは何者か。“寛容ラップ”のCMは最初「ドッキリかと思いましたよ」

ラッパー 呂布カルマ

ラッパー 呂布カルマ

当記事は「Forbes JAPAN」の提供記事です。元記事はこちら

ACジャパンのCMで相手をディスらない「寛容ラップ」で話題のラッパー呂布カルマ。ステージ上ではオールバックに柄シャツ、強面でインパクトのある見た目だ。アンダーグラウンド系のラップで知られ、数々のMCバトルで優勝を果たし、最強ラッパーとも言われる。

憧れの人に「やしきたかじん」を挙げ、名古屋在住でありながら、最近では全国のバラエティ番組にも進出している。活躍の場を広げる呂布カルマとは、何者なのか──。彼のホームクラブのある名古屋・新栄町で話を聞いた。


ACジャパンのCMはドッキリかと思った

コンビニのレジで、高齢女性が財布からお金を出すのに手こずっていると、背後の列にはオールバックにサングラスをかけた男性の姿が。タン、タンと足踏みが聞こえると、男性は突然ラップで歌い出す。
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「Yo!もしかして焦ってんのかおばーさん 誰も怒ってなんかない/アンタのペースでいいんだ 何も気にすんな/自分らしく堂々と生きるんだ」​​

さらに高齢女性もラップに応戦し、最後はレジ店員の女性も加わって「たたくより、たたえあおう〜」と歌う。



これが相手をディスらない「寛容ラップ」として知られ、Twitter上でも好意的に受け止められ、トレンド入りもした。

このCMに意外性を感じたのは、私たちだけじゃなかった。呂布本人も「最初ドッキリかと思いましたよ。でも俺に仕掛ける訳ないし......」と振り返る。撮影後も発表されるまで不安だったという。

「自分自身、何度もTwitterで炎上してますし、ボロクソ言われるんじゃないかと思って。でも好意的に受け止められたのは、自分でも意外でした」という。

一方で、台本に沿って、呂布がラップを書いたが、CMを見て「呂布カルマってめっちゃいい人じゃん」と言われることについては否定する。

「CMだけ見て俺のパーソナリティがああだと思われることもあって、怖くなっちゃいますよね。だって逆もありうるじゃないですか。悪役だったら悪く言われると。でもすごくいい人ではないです。レジは一応待ちますけど(笑)」。

強烈なパンチライン、独自のスタイルができるまで

呂布と言えば、2015年ごろから数々のラップバトルを勝ち抜き、有名ラッパーを輩出した「フリースタイルダンジョン」では、初代のR-指定やDOTAMAに続き、2代目、3代目モンスターとなった。

韻を踏むことだけに固執せず、強烈なパンチラインを効かせる独自のスタイルで、コアなファンからも注目されてきた。アンダーグラウンドのヒップホップの世界に身を置き、地元・名古屋で自身が共同代表を務めるレーベル「JET CITY PEOPLE」から楽曲を発表している。

そんな呂布には、意外な過去がある。元々は漫画家志望で、名古屋芸術大学美術学部へ進学。大学時代は、『ヤングマガジン』など青年誌で連載をしたすぎむらしんいちの作品などを好んだ。「全般的に流行っているものアレルギーがあり、メジャーじゃない作品の方が好きで、ギャグ漫画風だけどおしゃれでしたね」と語る。
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一方、1990年代から2000年にかけてDragon AshやRIPSLYMEなど日本語ラップが流行ったころ、高校生だった呂布は地元・愛知をレペゼンする伝説的ラッパーTOKONA-Xが表紙を飾っていたヒップホップ専門雑誌を買ってから、アンダーグラウンドのラップにものめり込んだ。

卒業後は就職をせずにフリーターとして、漫画家デビューを目指して漫画だけを描く生活に。だが、こもって黙々と制作する生活が退屈に感じ、「息抜きのため」自分でラップのリリックを始めた。

「大学を卒業してすぐ、名古屋のクラブに連絡してラップのステージに出るようになりました。いきなり人前に立てて、それが評価されることは快感でしたね」

親に対しては漫画を描くふりをして、名古屋だけでなく全国のラップのステージに立ち続けた。すると、早くも音楽関係者の目に留まり、ラッパー2年目には自身の曲が1曲だけ収録されたCDが全国発売されるように。
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「アンダーグラウンドの世界って、メジャーに比べて言葉の制約がなく、こんなことを歌って逮捕されないのかなと思うほど衝撃だった。言葉の使い方が全然違って、韻を踏むという言葉遊びの面白さにもハマりました」



プロラッパーの目標は「たかじんになりたい」

20代はフリーターで、30歳を過ぎてから教育塾の教室長として雇われ、働いたこともある。ラップを始めて10年、じわじわと稼げるようになっていき、32歳でプロのラッパーとして生活できるように。今から8年ほど前のことだ。

彼の人間性をシニカルに表す呂布の楽曲がある。やしきたかじんをオマージュした「ヤングたかじん」だ。その歌詞には「i’m ヤングたかじん 尊い魂 おととい来い子供騙し」や「俺は若い頃のたかじんになりたい/黒人よりもi wanna be a たかじん」とダウナーなビートに乗せて、ストレートにたかじん愛を歌っている。

なぜ、やしきたかじんなのか。「音楽活動をしていくにつれて、ミュージシャン全体で見るとどうなっていきたいか考えると、たかじんになりたいと思いました」という。昼間はテレビ出演し、切れ味鋭いストレートな物言いでお茶の間の顔となり、夜の街では豪快なエピソードにことかかない。

また呂布にとって「テレビに出ない版」のロールモデルもいる。それは井上陽水だ。「全国的に知られる歌手で『少年時代』は教科書にも載るスーパークラシック。だけど、楽曲作りでは攻めたことをやっている。怪人感がありますよね」。呂布なりに自身のキャリアを真剣に考えた末に出した理想像だ。
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