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「遊べる」大人のための車

この車を見ていると、20世紀はじめのエンジン車の黎明期に思いを馳せてしまうわけです。自分の目で見たわけじゃありませんが、初期の車は便利な道具として進化したわけではなく、金と時間がたっぷりとある上流階級の皆さんが、遊びの道具として走らせて性能を競い、その結果として速くなって信頼性も上がった。

現代のBEVもまた、コスパとか充電がとか、細かいことをちまちま言ってたらなかなか乗れない。「ウチにはほかに何台もあるから、とりあえずオモロいの1台持ってきてや」となると、ハッとするルックスとホッとするインテリア、そしてギョッとする加速とコーナリングでアピールするこんな車の出番だ。

「M」仕様というのがまたいい。MとはBMWのモータースポーツ活動を担いつつ、そこで得たノウハウで高性能かつラグジュアリーなモデルを仕立てる組織だ。日本でモータースポーツというとアブラ臭い雰囲気があるけれど、ヨーロッパではもともと上流階級の嗜みで、サーキットには社交場という側面もあったのだ。

心と財布に余裕がある、新しいモノ好きの方々が、こういう見た目も中身もオモロいモデルに乗るところから、BEVの時代の夜明けが始まるのではないだろうか。

モータージャーナリスト
サトータケシ
フリーランスのライター/編集者。何度かインタビューをしたフィギュアスケートの坂本花織選手が、北京五輪以降に大活躍しているのを見て、「親戚の叔父さんの気分を味わってます」とのこと。

新しい「M」らしさ

BMWにとって伝家の宝刀といえば、「M」。そのイニシャルをつけたフルバッテリー駆動モデル(BEV)というわけで、当然、注目度はとても高い。60ということは従来のエンジンモデルでいうところの12気筒エンジン相当。そのスペックに確かに匹敵する。

そもそもiXというBEVそのものが隅々まで新しいこと尽くしで、従来からのBMWらしさなどほとんど見当たらない。けれど、M60のアクセルを踏みこんでみれば、新しさに満ちた走りのなかにどこか「Mらしい」躍動感を感じることができた。

EV向けの走行音を、ハリウッド映画を代表する作曲家のハンス・ジマーが開発しており、アクセルの踏み具合に合わせてエンジン車顔負けのサウンドが鳴る。まるでSF映画に出てくる車のよう。

凄まじい加速に加え、要所では4WDが重い車体を滑らかにコントロールし、乗り心地も申し分なく、7シリーズの代わりとしても成立する。新時代を実感するに十分なMというわけだ。

ガソリンエンジン世代の車好きには、BEVを理解するまで少々時間がいるだろう。だからこそぶっとんだカタチで出てきた。

何はともあれ、乗れば楽しい。ガソリン好きが電気派に宗旨替えする日もそんなに遠くはなさそうだ。

モータージャーナリスト
西川 淳
フリーランスの自動車“趣味”ライター。得意分野は、スーパースポーツ、クラシック&ヴィンテージといった趣味車。愛車もフィアット500(古くて可愛いやつ)やロータス エランなど趣味三昧。


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