アドレス代表取締役社長 佐別当隆志さん Age 45●1977年、大阪府生まれ。ガイアックスでの起業家支援に従事。2018年にアドレスを創業。’20年にシェアリングシティ推進協議会代表、’21年にシェアリングエコノミー協会幹事に就任。
▶︎すべての画像を見る 「ここ数年、1週間も同じ場所に住み続けたことはないですね」。
そう語るのは、定額で日本全国さまざまな地域にある家をシェアして暮らす、“多拠点生活”サービスを提供する、アドレスの佐別当隆志さん。彼自身がサービスを体現する生活を送っているのだ。
「東京で会社員をしていた頃、自然豊かな場所に住みたくなったんです。しかし、どの地方に住むかを決めて、そこで生活できるように環境を整えるには労力がかかりすぎる。
また、気軽に移動しながら暮らすことが自分の理想のライフスタイルでした」。
そんな夢のような生活ができるのは、別荘をいくつも持てるような経済的に恵まれた人だけだろう。でも誰もが実現できたら?そんな思いから事業が生まれた。
「ひとりだったら結構なお金持ちでも1〜2カ所の別荘を持つのが限界です。それなら、月々定額で所有せずに住めるシェアハウスを全国に作れればいいと考えました。会社員をしながら起業したら想像以上に反響があり、すぐに会社を辞めて本腰を入れました」。
全国の空き家を活用し、月額4万4000円から多拠点生活できる住まいのサブスクリプションサービス。現在では国内約240カ所に滞在可能。多拠点居住というライフスタイルを提案することで、日本各地に広がる深刻な空き家問題を解消しつつ、近年注目されているリモートワークなどの新たな働き方の選択肢の幅を広げている。
全国住み放題の価格は月4万4000円〜。運営コストからではなく、全国家賃の平均値が4万円ほどだったことから設定したという。「地方でも都会でも、住居に対して払える一般的な金額」だと考え、その範囲で成立するサービスを目指した。
開始してすぐは、運営する物件のキャパシティを超えて希望者が殺到したが、現在は、1〜4部屋くらいの物件を毎月10軒ほどのペースで新たにオープンし、物件数の増加と同じペースで会員数を増やして安定的な成長を遂げている。
「今までの民泊サービスと違うのは、地域とのつながりを深く持てることです。シェアハウスに住み込みで家を管理する人のことを『家守(やもり)』と呼んでいます。家守が媒介となって、自然にユーザーと地域の人たちの出会いが生まれている。
例えば利用者の中に料理人がいるとわかると『ここで店をやらない?』という話になったり、子供が地元の学校に通えるように役所の方と学校に通える仕組みを作ってくれたり。アドレスを卒業してその地域に定住する人も出ています」。
同時に、地方の遊休資産の利活用など、社会的な好影響も与えている。
「スタートアップ界隈は顧客数の伸びで評価をされがちですが、それだけではない価値を生み出せていると実感しています。昨年、社会課題をどれくらい改善できたかを測る、社会的インパクト調査を公表しました。
このサービスが地域に受け入れられている要因は、数字には表れない信頼を得られているからでしょう」。
ダウンジャケット18万9200円/ビズビム、スニーカー12万9800円/コントラリー デプト(ともにエフ アイ エル トウキョウ 03-5778-3259)、シャツ1万2980円/ビューティ&ユース(ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ 丸の内店 03-6212-1500)、パンツ6万500円/カルーゾ × ランド オブ トゥモロー(ランド オブ トゥモロー 丸の内店 03-3217-2855)、ソックス1980円/パラブーツ(パラブーツ 青山店 03-5766-6688)
佐別当さんが描く、多拠点生活がもたらす未来像は明るい。
「最終的には、日本の人口の10%くらいが多拠点生活をして、日本中を循環している状態になるといいですね。人間の血液と同じように、人や情報、そしてお金がちゃんと循環しないとその地域の成長は止まってしまいますから。
すべての地域が、健全に残り続けるための人と場所の潤滑油的な存在でありたいです」。
伝統工芸の手法を用いて日本を発信するアウター ダウンジャケット18万9200円/ビズビム(エフ アイ エル トウキョウ 03-5778-3259)
ビズビムは、エリック・クラプトンやジョン・メイヤーなど、著名人からも絶大な支持を獲得するニッポンブランド。素材や縫製、染色などに、愚直なまでにこだわり抜いたアイテムが並ぶ。
佐別当さんが着たダウンジャケットは奄美大島の大島紬に使われる伝統的な染め方「泥染め加工」を施すことで独特の風合いを出した。
「渋さと鮮やかさを兼備した、グリーンの絶妙な色みが大人っぽい。軽くて暖か、着心地も抜群です」(佐別当さん)。