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言葉③「足るを知る」という言葉を思えば、日本は居心地のいい社会になると思う



Q:真山さんの人生を作った言葉、大事にしている言葉はありますか?

「正しさを疑え」という言葉を大事にしてます。常識とか正しいって、そう言われた瞬間に反論できなくなるんですよ。その一方で、みんな正しい側にいたいんですよね。

私の小説家としての仕事は、「正しいは1個じゃないでしょう」って。人の数だけあるし、その正しさにしがみついていると、もしかすると戦争するかもしれないし、もっと不幸になるかもしれない。

だから小説っていうのは、正しいは3つでも4つでもあっていいんだよって言うためにあるもんだと思っているので、だから常に「正しさを疑え」って自分の中にちゃんと真ん中に置いて、それでものを見るようにしてます。



Q:真山さんの小説は善悪の答えをハッキリ出さないという風に言われています。

善悪って難しくてですね、当たり前ですけど、当事者は皆、自分が善だと思っている。そうじゃないと、精神的に辛くて、生きていけない。オセロのように白黒がコロコロ変わりもする。

もちろん、絶対善、絶対悪はありますが、そこを気にしてるとすごい息苦しくなりますし、それより「あなたは自分に正直ですか」、「自分の中の違和感とちゃんと向き合っていますか」、「その違和感が世の中の『正しい』と違ったのであれば、それがなぜかを考えて、これでもいいんじゃないかなっていうぐらい自分に優しくしてますか」と伝えたい。

小説の中でも、登場人物たちがそれぞれの正しさをぶつけ合うようにしているのは、読者にも自分ごととして考えてほしいからです。



Q:小説家になろうと決めた時から、描きたい根底のテーマは変わっていないのですか?

そうですね。ただ、やっぱり年齢を重ねていくと価値観は変わっていくんですよね。多分、許せないことが減ってくるし、その一方で許さないことに対する執着が強くなるかもしれないし。

あとは、失うものはないから自分が犠牲になってでも、ここだけは曲げないでちゃんと言わなきゃいけないみたいな、腹をくくるようになるんだろうなって。まだそこまで100%いってませんけど、その意識はありますね。



Q:小説家に限らず、年齢とともに変化する価値観に素直に対応していくことが必要だと?

自分にとって自分は主人公なわけですけど、社会にとって誰が主人公かっていうのとは違う話ですよね。

当然ですが、20代には20代の役割があり、50代には50代の役割がある。50代の人が「俺はいつまでも若いぞ」って、20代のことをやられたら人は育たないわけです。そのエネルギーは若者を育てる側に使って欲しいって思いますね。

だから、「足るを知る」人が減ってきている気がするので、私はやっぱりもっと若い子に挑戦させたいし、だからこそ、「挫折は嫌です」っていう若い子が増えてきたことは、すごい危機を迎えていると思うんですね。

安全ネットを豊かにしてあげれば、挫折しても全然構わないわけで、そこがシビアになっているからそういう言葉が出てくると思うので、やっぱり年齢相応に「足るを知る」って言うことを思い出すだけで、随分日本って居心地のいい社会になると思いますね。

Q:貴重なお話をありがとうございました。今後も小説を書き続けたいという思いは変わらないでしょうか?

そうですね。何歳まで生きるかわからないですけど、書けなくなったらいつ死んでもいいと思うようになると思います。
[Profile]真山仁(まやま・じん)●1962年、大阪府生まれ。1987年、同志社大学法学部政治学科卒業後、新聞記者として中部読売新聞(現・読売新聞中部支社)に入社。89年、同社を退社し、フリーライターに。2004年、企業買収の世界を描いた「ハゲタカ」でデビュー。同作品はシリーズ化され、18年にはテレビ朝日系で連続ドラマ化。今年6月に沖縄の闇に踏み込んだ最新作「墜落」、9月には岩波ジュニア新書の書き下ろし「”正しい”を疑え!」を発表した。


記事提供:The Wordway

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