OCEANS

SHARE

2022.10.22

ライフ

「辛い、をちょっと変えれば“幸せ”」太宰府天満宮第39代宮司・西高辻󠄀信良さんの言葉


当記事は「The Wordway」の提供記事です。元記事はこちら(第1回第2回第3回)。
「昨日の自分を超える」をテーマに各界のトップランナーの言葉を音声とともに届けるメディア『THE WORDWAY』。音声を楽しみたい方はオリジナル版へ。
今回のアチーバーは、福岡県の太宰府天満宮第39代宮司・西高辻󠄀信良さんです。

「学問の神様」として慕われる菅原道真公の御墓所の上に建てられた太宰府天満宮は、道真公を祀る全国約1万2000社の総本宮と称えられ、西高辻󠄀家は子孫として代々宮司職を世襲しています。

西高辻󠄀さんは1983年から、息子の信宏さんにバトンを渡す2019年3月まで責任者である宮司を務め、歴史や伝統を守る重責を担いつつ、音楽や芸術との接点を積極的に作る先進的な取り組みでも注目を浴びました。

「伝統」と「革新」―。組織、企業を発展、継続させていくための本質を、様々な時間軸で物事を捉えてきた西高辻󠄀さんの「WORD」から感じてください。



言葉①「変わり続けても変わらないものを守っていこうと思っている」

Q:まずは、神社の仕事をイメージしづらい方も少なくないと思いますので、神社とは、宮司の仕事とはという部分から教えていただけますか?

神社は2つの面を持っています。1つは信仰、祈りの場であるということです。私どもの太宰府天満宮は、菅原道真公への祈りの場として、祭典・神事を斎行し、多くの参拝者の皆様にその祈りの場を提供しています。

もう1つは運営です。神社は長い歴史がありますが、そのまま放っておけば、実は朽ちるだけなんです。なのでその時代その時代に、管理、そして営繕修理を行っていくわけです。

Q:国内外から年間約1000万人の参拝者が訪れると聞きました。歴史を守る立場として大切にしてきたことはありますか?

皆様に喜んで太宰府天満宮にお参りをしていただく為に、神社として何をすべきか。私は、美しくないといけないと思っています。

天満宮の境内に入った瞬間、「あ、何か変わったね」と。それは、言葉で表現できるかは分かりませんが、それぞれの人の心に響く、何かを感じていただく環境づくりをしなければいけない。目に見えるものよりも、目に見えないものの大切さですね。



Q:神社の責任者である「宮司」を世襲する西高辻󠄀家の39代目として生まれたわけですが、跡を継ぐのは自然な流れだったのですか?

普通の方との仕事の一番の違いは、私は時間軸だと思っています。僕らは、100年、200年過去のことを昨日のように話します。

太宰府の土地を、私が素晴らしいと思うのは、道真公が西暦901年に大宰府に見えて、住んでいらっしゃった小さな館があるのですが、そこで「観世音寺」というお寺の鐘を聞くんです。1100年たった今、国宝となっているその鐘は、今でも音を出せるんですね。

この場所は、私達の祖先とタイムマシンみたいに繋がることができる場所じゃないかなと。そういうものを日本人の財産として、僕らがお預かりする。そして、お預かりをするなら、自分の家の家業として、役に立つ術があるのではないかと。だからこそ、この家を継いでみよう、神職を継いでみたいと思いました。



Q:都内の大学に進学されたと聞きましたが、他に興味を持った世界などはなかったのですか?

電通・博報堂など広告代理店に行って、街づくりをやってみたいという思いはありましたね。街をどうやって元気にするか、そんなことを本当はやってみたかった。でも、30歳で宮司になった時に、自分が何もできなかったんです。

私ができるのは、参拝者との距離感をどうやって詰めるか、そしてここでお参りされた方に、どう元気になって帰っていただくかだなと。そのためにどんな「神社」という広場を作ればいいのかなということを、少しずつ、いろんな組み合わせをしながら形作っていくのが仕事だと思ったんです。



Q:歴史がある特別な神社です。重責を担うと、歴史を「守る」ことの意識が強くなってしまうのではないかと思うのですが、新しい取り組みをすることに不安などはなかったのですか?

神様と対話をしながら、僕が一番楽しいことをやろうと。それで皆さんにお役に立てばいいのかな。守るものと、変えて変わり続けるものとがあって、僕は「変わり続けて変わらないものを守っていこう」と思っています。

理想の神社というのは、100年前に御本殿と飛梅の前で撮った写真と、今生きてる僕らが100年後この場所で撮った写真が同じ神社なんだと思っているんです。そのためには、手を入れ続けなきゃいけない。

100年経って振り返ってみたら、変わってるんだけど、変わってない。100年後の人が見て、「何も変わってないじゃないか」と思えるのが、一番理想。変わってるんですけどね。私はそう思っています。


2/3

次の記事を読み込んでいます。