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社会情勢の変化と隣り合わせの選択



デフレ、感染症、戦争、円安など、社会情勢の悪化は私たちの日常生活を大きく左右する。

リスクを最小限に抑えるため、畑を借りて農業にチャレンジしたり、都会を離れて地方に移住したり、電力を自分で賄う方法を模索したりする暮らし。松岡さんが出会った先代たちのような一部の人に限られていたそうした生き方が、今では一般に広がりつつある。

俳優の山田孝之さんは今後やってくるかもしれない危機に備え、自給自足のノウハウをみなで学ぶプロジェクト「原点回帰」を開始。山田さんの想いはオーシャンズでもお伝えした

若い世代の新規農業人口は確実に増えているし、都心を離れ地方に移住する動きも増えている。そんな流れについて、松岡さんはどう思うのか。


 
「都会に住むことは便利だけど、もし供給や流通が止まったら都会ほどダメになりやすい。田舎に移る目的はそれぞれ違うかもしれないけど、どんどんみんなやるといいよね。

僕は人の真似をするのが嫌いだから、人と違うことをやることに価値を置いてきたけど、こればっかりはね。これからの時代を考えると、みんなどんどん真似して、どんどん教えてもらって、知ってることを人に教えていくっていうことが大切になると思う」。

伊豆の山奥で、なるべく自然と調和する暮らしを実践。

伊豆の山奥で、なるべく自然と調和する暮らしを実践。(写真提供:松岡俊介)


誰よりも早く時代を読み舵を切った松岡さんだが、自分のやり方は下手で雑だと、正直に話す。現在、単身赴任で一人、横浜で暮らす理由もここにある。

「かわいがってた後輩が伊豆の家に泊まりに来ていろいろ質問してくるなと思ったら、何カ月後かに、うちよりもいい山に引っ越してました(笑)。僕の失敗点をちゃんと見抜いて、水が湧き出る土地を買ったりね。羨ましいですよ。

ほかにも、ユーチューバーになろうかなって話してたら、後輩が先にユーチューバーになってて、移住した家を改修する様子なんかを動画にあげたりしてました。僕はYouTube用のグラフィックを作らされましたね。うまく利用されてますよね」と笑って話す。

将来は松崎町にもっと関わる生き方がしたい



松岡さんの理想は家族と暮らしながら松崎町という地にもっと関わる生き方だという。

今は、子供たちの教育費や生活費を山の生活だけでは捻出できないため、一年前から横浜の白楽で働いている。

「僕は要領が悪いからこうして単身赴任で働いているけど、田舎暮らしに精を入れたい一方、都会も好きだし、どっちつかずな人間なんです。山奥暮らしを始めて13年、そろそろ土地に根ざして暮らしたいと思いますけどね」。

自家製の梅干し。南伊豆での暮らしは手仕事・肉体労働で忙しいという。

奥様手作りの梅干し。(写真提供:松岡俊介)

 

松崎町に移り住んだ理由がそもそも「不便に挑み人間力を付けること」だったことを考えれば、単身赴任で出稼ぎしている今の状況も、本人にとっては悲観することではないのかもしれない。

聞くと、大木のような佇まいと落ち着いた声のトーンで返ってきた。「まったくどうってことない、と言ったら極端だけど、今は家族のためにも、このカメヤ食堂を全力で盛り上げていきますよ」。

さて、後編ではその不便だらけの山暮らしの様子をたっぷり語っていただく。

沼尾翔平=写真 ぎぎまき=取材・文

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