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「失敗から学ぶ移住」とは……
大企業の元営業担当という肩書きは、大自然に囲まれた田舎では都会と同じような評価を得られない。「自分とはいったい何者なのか」というブランディングの焼き直しは、地方移住の“あるある”かもしれない。
それを現在進行形で実践しているのが電通を退職後、岡山県に移住し、真庭市の公務員として働く平澤洋輔さんだ。
平澤洋輔(ひらさわ・ようすけ)●2012年電通に就職。営業としてJAグループを担当し、国産農畜産物の消費拡大PRなどを手掛ける。自分の広告スキルを地方で活かしたいと、2017年に妻と子供3人で岡山県に移住。現在は真庭市で公務員として勤務する。
湘南生まれ、湘南育ちの彼が目の当たりにしている地方移住のリアルとは? 平澤さんの葛藤を包み隠さずお届けする。
電通時代に地方へ意識がシフト
電通時代、撮影で訪れた地方のロケ地でスタッフと記念撮影。貴重な思い出のひとつ。
「30代前半の2016年あたりから、地方移住という選択肢が頭にちらほら浮かんでいたんです。湘南の暮らしには満足してました。でも、自分の人生を考えたときにほかの土地を知らないまま終わりたくないな……とも思ったんです」。
移住先として高い人気を誇る湘南だが、そこで生まれ育った人間には外の世界の方が魅力的に映る。平澤さんは、電通時代に見て回った地方の一次産業の取り組みに直接関わりたくなったという。
「電通ではJAの営業を担当し、国産農畜産物の消費拡大PRに関わりました。あるとき地方出張で岡山県の西粟倉という村に出会ったんです。人口1500人弱でローカルベンチャーが集まる、森林に囲まれた村です。
ここでは農業・林業・漁業すべてに取り組むという珍しい試みをしていて、3つの資源をうまく循環させるサーキュラー・エコノミーにも挑戦していた。これはめちゃくちゃ面白い! と思いましたね」。
自分の周りを見渡せば、当然自分と同じスキルを持つ人がたくさんいる。東京よりも、地方の方が自分の個性が活きるのではと、挑戦を決意した。
国産農畜産物の消費拡大を目的に、新宿駅の地下通路に野菜の出現させたり、都内の寺社に鏡餅をかたどったイルミネーションを設置するなど、屋外広告を活用してPRを実施。
「自分の商品を知ってもらったり、売ったりする方法を知らない人が地方には多いんです。だったら、自分のマーケティングスキルを地方で活かそうと思いました。地方創生の取り組みにも直接的に関われるし。ということで、反対していた妻を猛烈に説得して、2017年に家族5人で岡山へ引っ越したんです」。
東京から西粟倉村に移住をした平澤さんは、転職先のローカルベンチャー企業で、国内初の取り組みになった「うなぎのASC認証」や自治体初となる「仮想通貨での資金調達」など、話題を集めたプロジェクトを多数手掛けた。
だが、常に自分をより活かせる場所を追求し、移住5年の間に「退職→独立→起業→地方公務員」という変遷を辿ることに。その裏には、自分を社会に役立てたいという平澤さんの想いがあった。
「広告って人々の琴線に触れられるし、意識変容や行動変容を起こせるポテンシャルもある。社会を良い方向に導く力があるとも思っています。だから、衰退している地域や消滅すると言われる地方都市でも、本気でやれば元気になるはず。
僕はそう信じているし、それが広告の醍醐味で面白いところ。自分のキャリアアップより、そういう使命感みたいなものが原動力ですね」。
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