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2022.10.12

ライフ

「中途社員のパフォーマンスが低下してきた?」定着→活躍を邪魔する“見えない壁”


 「モヤモヤ り〜だぁ〜ず」とは……

本日の相談者:不動産関連・44歳
「中途採用で入社した女性メンバーが即戦力で活躍してくれていたのですが、入社半年ほど経ってからパフォーマンスが明らかに低下してきました。

おそらくプライベートな事情が関係しているのではないかと思うのですが、そのあたりは個人情報や人権の問題もあり、詳しく聞くのはコンプラに抵触するのではないかと懸念しています。

自然に事情を引き出す方法があれば教えてもらいたいです」。
アドバイスしてくれるのは……
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そわっち(曽和利光さん)
1971年生まれ。人材研究所代表取締役社長。リクルート、ライフネット生命保険、オープンハウスにて人事・採用部門の責任者を務めてきた、その道のプロフェッショナル。著書に『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『日本のGPAトップ大学生たちはなぜ就活で楽勝できるのか?』(共著・星海社新書)ほか。

受け入れられていると感じていないかも

中途採用の社員はすぐ「即戦力」として扱われがちですが、それは危険な考え方です。

もちろん経験豊富でスキルや能力も高い人に、すぐに活躍してほしいという期待する気持ちはわかりますが、持てる能力を新しい環境で発揮するにはステップが必要です。

そして、オンボーディング(新入社員が組織に定着するために行う諸施策の総称)の研究でも、活躍するためにはまず「受容感」が重要とされています。

もしかすると彼女は、まだ会社の仲間として受け入れられたという「受容感」を持てていないのかもしれません。
 

敵に囲まれている気分では頑張れない

もちろん中途入社者は「この会社に入りたい」と自己決定して入社しているわけですが、そんなに簡単に組織コミットメント(組織に貢献したいと思う気持ち)が持てるわけではありません。

心理学の「好意の返報性」のように、人は恩義を感じて後に、それに報いようとするものです。会社に入ったばかりの人はまだまだアウトサイダー、よそ者です。

そんな時に「即戦力なんだから成果出してね。さあお手並拝見」という態度で周囲が接すれば、「なんと冷たい仕打ち」と思うでしょう。

そうなると、同僚は仲間ではなく敵になってしまいます。そんな動機で仕事を長く頑張れるわけがありません。

仲間にしかプライベートな話はしない

仕事をしていれば、誰もがプライベートに何か問題が生じて頑張れないこともあるでしょう。

そんなときでも職場の同僚が仲間であると思えるなら、頼ってみようということにもなるでしょうが、敵なら弱みを見せることはできません。

仲間に対しては「プライベートでつらいならサポートしよう」となりますが、敵なら「プライベートを仕事に持ち込むなんて」と責められる可能性もあります。そんな状態であれば、プライベートの問題を聞き出すことなど到底不可能です。

そういう意味でも、やはり仲間として受け入れてもらったという「受容感」は必要なのです。
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「疎外感」を感じる理由はインフォーマルネットワーク



中途入社者が「受容感」を感じずに「疎外感」を感じるのは、多くの場合、組織のインフォーマルネットワーク(非公式なつながり)に接続できていないことが理由です。

組織には、組織図に表れるフォーマルなつながり(上司・部下等)だけでなく、新卒同期や過去の部署の同僚、学校の先輩・後輩、社内サークルのメンバー等、非公式なつながり=インフォーマルネットワークがあります。

そのコアは「同期」であることが多く、新卒プロパー社員は自然にインフォーマルネットワークにつながっていくのですが、中途入社者はそうはいきません。
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いつまでたっても「裏のもうひとつの組織」には入れないままでは「疎外感」を感じるのも当然です。
 

インフォーマルネットワークに接続できないと仕事もやりづらい

そして、特に日本はこのインフォーマルネットワークが仕事の上においても強い影響を与えることがあります。

良し悪しは別として、情報流通や意思決定がインフォーマルネットワークを通じて行われることもあります。以前リクルートで中途入社者の退職理由を探る仕事をしました。

退職者の多くが「この会社はどこをどう押せば動くのかがわからない」と言っていたのを思い出します。

案件を通すときに誰を押さえておけばいいのか、大事な情報は誰が握っているのかわからないということです。

「見えない壁」に邪魔されていると感じてしまっては、仕事もやりづらいことでしょう。

ハブ人材や中途同期とつなげてあげる

 

さて、質問者の相談内容に戻ります。

まず中途入社の彼女にしてあげるべきことは、社内のインフォーマルネットワークにたくさんつながっている中心人物=ハブ人材(必ずしもフォーマルに偉い人とは限りません)とつなげてあげることです。

一緒にご飯を食べに行ってもいいですし、あえて何かの仕事やプロジェクトを一緒にアサインしてあげてもよいでしょう。

また、中途入社者は同じ境遇の中途入社者にシンパシーを抱くものですから、例えば「この3カ月間で入社した人は中途同期です」と無理やり決めてしまって、懇親会をしてもよいでしょう。

私も実施したことがありますが、思った以上に「中途同期感」が出て、助け合うようになりました。「仲間」ができれば、情報提供者も増える

ハブ人材につながれば、後は自然にネットワークが広がっていきます。また、中途同期という強い独自のネットワークができればそれもセーフティネットになりえます。

つまり、会社の中に「仲間」がどんどんできて、受け入れられた状態になるということです。そうなればしめたものです。「仲間」感ができれば、プライベートの話なども自然に出てくるはずです。

そして、もし本当にプライベートに重大な問題があるのであれば、心配した「仲間」が上司であるあなたに「ちょっとお耳に入れておきたいことがあるのですが」とこっそりと情報提供してくれるかもしれません。

そのときには、素知らぬ顔でさりげなくサポートをしてあげればよいのではないでしょうか。

グラフィックファシリテーター®やまざきゆにこ=イラスト・監修
曽和利光さんとリクルート時代の同期。組織のモヤモヤを描き続けて、ありたい未来を絵筆で支援した数は400超。www.graphic-facilitation.jp

曽和利光=文

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