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海に潜ると、個人の“私”になれる

女優 木村文乃●1987年、東京都生まれ。16歳で女優デビュー。以降、映画、テレビドラマなど数多くの作品に出演。現在、テレビ大阪制作のドラマ「ちょこっと京都に住んでみた。」に出演中。今秋は『LOVE LIFE』に続き、10月7日(金)に公開される『七人の秘書 THE MOVIE』でも主役を演じる。目下、潜りたいのはバイカル湖。

女優 木村文乃●1987年、東京都生まれ。16歳で女優デビュー。以降、映画、テレビドラマなど数多くの作品に出演。現在、テレビ大阪制作のドラマ「ちょこっと京都に住んでみた。」に出演中。今秋は『LOVE LIFE』に続き、10月7日(金)に公開される『七人の秘書 THE MOVIE』でも主役を演じる。目下、潜りたいのはバイカル湖。


これまでサーフィンに夢中の役者たちに聞いた共通の魅力には“素に戻れる”というものがあった。

役者とは、その役を生きること。自己を極限まで抑えた時間を過ごしていると素の自分を見失うことがあるのだという。そのようなときに海へ行くと、海は圧倒的な自然の力で、ただの個である自分に戻してくれる。

さらに無心で波を追ううちに頭の中は空っぽに。海から上がったときには憑き物が落とされているらしい。

「わかります。ダイビングは特に機材が多いので、ひとつでも何かを忘れたりすると楽しくないんです。全力で楽しむためには、潜る前に一つひとつをすべて自分で確認する必要があって、でも確認することが多いから、余計なことは考えていられない。

海に入るまでは緊張していることがほとんど。でもザブーンと飛び込んだあとは潜るだけなので、雑念がなくなるというか。海から上がると“気持ち良かった”という感情しか残っていないんです」。

海の中でのひとときを共有したことで、一緒に潜った人たちとの関係性も変わる。

「潜るまでは“女優さんだ”という接し方なんですけど、なぜか海から上がると、みんなただの人になっているんです。写真撮ろうとか言ってくる人もいないですし。その感じがすごく好きで。

普通の人として接してくれたら、私もダイビング仲間としてお話ができるじゃないですか。そうやって人の輪が広がることが、今はすごく楽しいですね」。

さらに、ダイビングを始めてからは自分と向き合う時間をつくれ、「今まで自分で自分の時間をなくしていたんだな」といった気付きも得ることができたという。

海に潜る楽しさを多く人に知ってほしい

ひとりの人間として生きてもいいと教えてくれたダイビングだが、経験の少なさを理由に、確固たる魅力はまだ見つけられていないという。

ただ、雲上の光景を地上からは見ることができないように、潜った人だけが見られる海の中の光景に、今はとても魅了されている。

「よく潜りに行く宮城県の海にはアザラシがいるんです。もし訪れたタイミングで遭遇できたら、そんなサプライズをプレゼントされたら、もう海が好きになっちゃうじゃないですか。

その出会いは、行ったら必ず会える動物園とは違い、何の保証もない自然の中で起きた奇跡のようなもの。その喜びを知ってしまったら、やめられないです」。

ダイビング愛を語る口調はやや速くなる。その愛情の深さから、今年は事故時の救助方法などが身に付けられるレスキューダイバーのコースを修了し、ライセンスも取得した。

「10代のときに水泳をやっていたことから水には慣れていて、海への怖さもありませんでした。だからみんなそういうものだと思っていたんです。

でも友達を誘ってみると、海に怖い印象を持つ人がいたり、誰もが楽しくダイビングできるわけではないんだと知りました。

もし不安がなくなれば楽しく潜れるのなら、私がそのリード役を担いたい。そう思って、いずれはインストラクターの資格を取りたいとも考えています。まずは自分がきちんと知識をつける必要がありますから」。

そうして彼女の中で海の比重が増えていく。はたして木村さんは、どこへ行ってしまうのか。

「本当ですよね。といってもライセンスを取得してまだ4年目。今は流れにまかせてみようと思っています。ただ、これしかないという生き方は、もうやめようと決めました」。

身体の中に潮風が吹くようになって、「人と向き合えるようになりました」と仕事にも変化が表れた。転機を経験して迎えた主演映画1作目となる『LOVE LIFE』の撮影にも楽しく臨めたいう。

 

『LOVE LIFE』監督・脚本:深田晃司/出演:木村文乃、永山絢斗、砂田アトム、山崎紘菜、神野三鈴、田口トモロヲ/配給:エレファントハウス/9月9日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国ロードショー Ⓒ2022 映画「LOVE LIFE」製作委員会 &COMME DES CINEMAS


「構想に18年をかけたことで、すべての役に監督は明確な答えを持っていて、私の仕事はその世界観を体現することでした。

でも私は監督ではないので完璧に演じられるわけもなくて。その際、“このシーンはどうしますか?”というコミュニケーションを演じながら成立させていました。

それは私と監督の間に細いピアノ線がピンッと張られているような状態。その時間が、私にはとても気持ち良く感じられたんです」。

公開は9月9日(金)。さてその頃、木村さんはどこの海で潜っているのだろうか。

たとえそれがどこの海でも、髪を濡らし、程良く日焼けをして笑っている“役ではない私”が、そこにはいるはずである。

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鍵井靖章=写真 小山内 隆=編集・文

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