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この結果に満足した私は、満を持して、アメリカ言語学会でこの成果を発表。研究者人生は20年を超えるが、自分の研究発表に立ち見が出たのは、後にも先にもあの時だけだったと思う。

また、その発表を聞いてくれた先生が、「ぜひうちの大学でもゲスト講義を!」と言ってくれ、ハーバード大学の学部生相手に講演も行った。

ついにラップバトル番組の審査員に

時を経て、いろいろな運命が重なり、4年前には、フリースタイルと呼ばれるラップバトルのテレビ番組『フリースタイルダンジョン』の審査員を務めさせて頂いた。当然だが、私は韻にこだわった審査をした(それ以外にどうしろというのか)。

『フリースタイル言語学』(大和書房)

『フリースタイル言語学』(大和書房)


私の審査方法について賛否両論あったことは知っている(「エゴサなんて二度とするか」と思った)。ま、私のことを知らない人たちからすれば、「へんなインテリ野郎が、俺らのテリトリーに踏み込んでくるんじゃねぇ」くらい思うのも無理はない。

しかし、私は日本語ラップを愛し、ラッパーでもないのに、勝手に日本語ラッパーの言語学的な感性を擁護してきた、そういう人間なのだ。そこんところをわかってくれれば嬉しい。

それでは最後に、ちょっとしたクイズを1つ。

Q. 日本語ラップの字余りに含まれやすい母音とはなんでしょうか? 

A. 「い」と「う」。

これらの母音は、日本語の母音の中でもっとも短く、もっとも静かな母音です。また無声化して聞こえなくなることもあります。「字余りは主に『い』や『う』だけ」という観察もまた日本語ラッパーの言語的な感性の鋭さを示していると言ってよいでしょう。



川原 繁人 : 慶應義塾大学教授
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記事提供:東洋経済ONLINE

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