言葉③「成長するより変化したい。そのために365パターン違う生活をする」
Q:ビジネスの世界でも、挫折を感じたり、うまくいかない時期はあると思います。渡部さんも、キャリアの中で停滞を感じた時期はありましたか? 大学1、2年の時ですね。高校生でオリンピック出た時はジャンプが得意で、(クロスカントリーが)走れないっていうバランスの選手だったんですが、大学に入って、ジャンプが飛べなくなったんです。
高校3年生の時に、トレーニング中に転倒で手首を骨折して、それから飛ぶのが怖いと言うか、体が拒否してしまって、2年間ぐらいまともに飛べなかったんですよ。
思い描いていたトップへの道っていうのが、いきなりスパンと絶たれた感じでしたね。
Q:どのようにして、そこを乗り越えたのですか? クロスカントリーはいい機会だし、将来的には伸ばさなければいけないものだから、そっちに集中して、とにかく自分の走りを改善するんだっていうところに取り組みました。そこで一気に走力がアップしたんです。
1回バランスが逆転して、しかも中途半端な逆転じゃなくて、どん底から逆のどん底みたいな感じになった。そのアンバランスさを経験したことが、キャリアにとっても大きなポイントであり、きっかけだったなと思いますね。
Q:誰しも、目標に近づいている実感や、自分自身の成長を感じたくなるものだと思います。渡部さんはどのようにそこと向き合っているのですか? 刺激を自分で作りにいくことを意識しています。大きな刺激じゃなくていいと思うんですよ。生活の中であえていつもと違うことをするみたいな。
自分が意識している、「毎日これを食べよう」と考えているものを、いきなり止めてみるとか。通勤の時に1個前の駅で降りて歩いてみるとか。そういう小さい刺激を意識的に作るんです。
Q:生活の中に小さな変化をつくるだけでいいと? 僕は、1年365日、365パターン違う生活をするように心がけています。そういう、刺激作りをすると、毎日楽しくなると思います。
靴を左から履こうが、右から履こうが、仕事には影響ないじゃないですか。でもそれがあると、ちょっと違う気分で仕事に向かえて、「もしかしたら違うアイデアが出てくるかもな」って。そういう感じでいいんです。
違う自分をあえて探しにいくみたいなのを、意識的にやってみるってことです。
Q:最後に、渡部さんの次の目標を聞かせてください。 昨シーズン結果が出たのはオリンピックだけだったんです。ワールドカップはもう本当にボロボロだったんで。なんかそこの悔しさがすごく大きくて。ちょっと、またワールドカップで勝って、勝てる試合を続けていきたいなっていう気持ちが今芽生えてるんで。
今シーズンは世界選手権もあるので、そこでメダルが獲れるのかどうかっていうところが、今シーズンに関しては目標ですね。
[Profile]渡部暁斗(わたべ・あきと)●1988年(昭63)5月26日、長野・白馬村生まれ。3歳からスキー、小4からジャンプを始める。中1から本格的に複合に取り組む。オリンピックは06年トリノから5大会連続出場。14年ソチオリンピック、18年平昌オリンピックと連続で銀メダルを獲得。22年北京オリンピックでは個人で銅、団体でも銅メダルを獲得。ワールドカップは荻原健司と並ぶ通算19勝で、17-18年シーズンは総合優勝も果たした。173センチ、61キロ。