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言葉②「螺旋階段みたいなもの。歩みを止めなければ、回っているようで、少し登っている」



Q:小学校の卒業文集に「世界一」と書いたそうですが、当時、具体的な目標や、目指す選手像のようなものはあったのですか?

98年の長野オリンピックのエネルギー、熱量を感じた時に、自分もそこで戦って世界一になりたいと思ったので、「金メダルを取りたい」とか「優勝したい」とか、そういう具体的なものじゃなくて、漠然と「こういう選手になりたい」という選手像みたいなものを想像していましたね。

Q:「世界一」というとオリンピックの金メダルや、ワールドカップの優勝とかを想像してしまうのですが、何が世界一なのか、渡部さんの中に明確なイメージはあったのですか?

くっきりしないんですよ、それは。常に考え続けていることというか。何が世界一なんだっていうのは決まってなくて、その時の自分の経験値にもよるし、どんどん変化していくものなんです。

ただ、一つブレてないところは「横綱相撲」ができるというのは、世界一と呼ばれるには必要な戦い方なのかなと思っていましたね。そこが王道であって、王道を進んでこそ真のチャンピオンなんだと思います。



Q:2011年にはワールドカップで初勝利をあげます。節目の大きな一勝だと思うのですが、目標だったり、見えている世界に変化はありましたか?

ワールドカップで勝つ前ぐらいが一番、「もしかしたら世界一になれるかも」と考えてましたね。でも勝ったら遠のいていくんです。

ワールドカップで勝ったけど、「自分は世界一なのか」って、またその疑問がわいてくる。その日のレースを振り返った時に、「自分のレースは世界一だと言えるのか」という疑問がまた出てきて。

勝つこと自体はすごく嬉しいんですけど、自分が求めているものの一部でしかないという感覚でした。



Q:5度のオリンピックでは、14年ソチオリンピックで銀メダル、18年平昌オリンピックでも銀メダルを獲得されました。今回の北京オリンピックでは、金メダルはなりませんでしたが、3大会連続メダル獲得の快挙で、これまで以上にやり切った表情が印象的でした。

北京では、金メダルを獲れなかった悔しさはほぼなかったですね。ソチと平昌に関しては、金メダルを獲れる可能性がすごく高い状態での銀でしたが、今回はメダルすら獲れないようなパフォーマンスレベルで、ある意味運も味方しての銅だったというのもありますね。

あとはレース内容がすごく面白かったですし、お会いする人に面白かったって言ってもらえる。複合の面白さを共有できたっていうこと自体が、すごく嬉しかったので。結果じゃないところですごく喜びがあるっていうのは不思議な気持ちですよね。



Q:ワールドカップとオリンピックの位置づけに葛藤しつつも、常に結果を残し続けてきました。何かを成し遂げた後に、自分が否定してきたものを新たに求めたり、目標に向けて柔軟に考え方を変えていくのはすごく難しいことだと思うのですが。

やっぱり、すんなりはいかないですよ、考えも。いろんな所で自分の欲みたいなところと、常に向き合わなきゃいけないんで。

今回の北京は、オリンピックの金メダルを目指して戦っての銅メダルでしたけど、メダルの色じゃないんだって思えた。でも、だからこそ、やっぱ勝たなきゃダメだなとも思ったんですよ。

ぐるぐる回りながら、とにかくもう1勝っていうものがやっぱり大切なんだなっていう。とにかくやっぱり勝たなきゃダメだなって思ってもいるんです。

Q:そうやって、ぐるぐる回りながらも、自分の心に素直に歩み続けてこられたのはなぜですか?

立ち止まってないからじゃないですかね。常に歩き続けてるから。

戻ることも進むことも、自分の中ではそんなに大きいことじゃないんです。ぐるぐるぐるぐるいろんなところを回って歩いてる。螺旋階段みたいな感じなんじゃないかなと思ってるんですよね。

回ってるように見えて、実はちょっと高く行ってるみたいな。とにかく歩みを止めないこと。良くも悪くも歩みを止めないっていうところが、自分の人生なのかなと思いますね。


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