OCEANS

SHARE

2022.06.07

ファッション

汗、湿度、臭いに負けない“和紙素材”のTシャツは日本の夏の救世主。その仕組みと魅力



▶︎すべての画像を見る

汗や部屋干しのニオイが気になってくるこれからの時季に、快適な着心地を実現する日本ならではの素材がある。それが和紙。

和紙素材Tシャツの驚くべき機能性と可能性を解説する。

「高温・多湿・多汗」を制するジャパントラディショナル

 

ポリエステルの芯に和紙を巻きつけ撚糸した特許素材である「ワシファブリック」を使ったグラフィックTシャツ。しなやかで伸びがありながら、爽快なタッチを実現している。9900円/アンダーソン アンダーソン(アンダーソン アンダーソン 東京ミッドタウン 03-6447-1099)


結論から言えば、和紙素材こそ夏のTシャツの諸問題を解決する救世主である。

吸湿性に優れ、ドライな肌触りをキープし、消臭・抗菌作用を備えている。さらにUVカット、軽量、耐久性、帯電防止、通気性と目を見張る多機能ぶり。

だがなぜ、これほど優秀な素材がにわかに注目され始めたのか。もっと以前からTシャツに使われて然るべき素材だったのではないか。

 

優れた吸放湿性と肌離れの良さを誇る独自の機能素材、「ワクロス ハイブリッド」を使用。チャコールグレーのTシャツはポリエステルを交撚してしなやかで伸びのある着心地を実現。ライトグレーのTシャツにはコットンを混紡し、肌触りの良さとドライ感を兼備した仕上がりとなっている。各9790円/ワクロス エッセンシャル(MNインターファッション www.wacloth.com


「実は紙糸自体は30年ほど前から生産されていました。ただ当時のものはいわば趣味向け素材で、編み物や雑貨用。

これが近年、より細い糸が作れるようになり、Tシャツなどの衣料に使われ始めたのです」(MNインターファッション[ワクロス エッセンシャル]・米﨑尊路さん)。

 

[上]紙を特殊な機械で細くスリットする。この切断の技術と、このあとに続く工程の撚糸技術が「ワクロス エッセンシャル」の素材製造の核心部。さらりとした肌触りを生み出す秘密だ。 [下]紙糸「ワクロス ハイブリッド」。


ここで改めて「和紙素材」はどうやって作られるのか、手順を簡単に説明しておこう。

まずはアバカ(マニラ麻)などを原料に紙を作り、その紙を数mm程度の細さにスリット(切断)する。スリットされた細い紙テープを撚る。

「カミト」はポリエステルの芯糸にテープ状の和紙を巻きつけていく、特許構造の糸を使用。肌に触れる部分が和紙となるため、その軽さやドライ感を余すところなく味わうことができるのだ。


こうして紙糸が完成し、そのあと他の繊維を合わせた糸=和紙素材を作っていくのである。

紙と他繊維の合わせ方、撚り方、配合率などは用途によってさまざま。裏を返せばそこに和紙素材の研究の余地があり、ブランドそれぞれの個性を形作っているというわけだ。

 

シャリ感のある肌触り。吸水性、速乾性、抗菌効果を持つ機能素材でありながら、その独特な質感がシンプルなデザインのなかでニュアンスを発揮。今どきのゆったりとしたシルエットもいい。1万1000円/カミト(カミト ジャパン http://kamito-japan.com


「伸度と強度を出すためにポリエステルの芯糸を使用します。そのポリエステルが表に出ないように和紙を巻きつけていく特許構造がポイント。

肌に当たる部分はほぼ100%和紙ですから、さらりとして肌離れ抜群なんです」(カミト ジャパン・川崎千雪さん)。

 

極細の和紙にポリエステルを撚糸することで膨らみと伸縮性のある糸を製作。その糸で立体的な表情を作り出した個性的なTシャツである。吸水速乾性に優れ、シワになりにくい特性を持つ。2万2000円/ウェルノード(アルファ PR 03-5413-3546)


和紙素材がここまで注目されるようになった理由には、機能性と技術の進歩に加え、ファッション業界において「サステナブルな視点と取り組み」が欠くべからざるものとなっていることが挙げられる。

和紙素材の主原料である紙糸は天然繊維。アバカや針葉樹の間伐材から作られており、生分解性があるため最後は土に還る持続可能な資源だ。

 

和紙とポリエステルを撚り合わせた糸に強撚の超長綿を引き揃えた、ハイゲージのニット素材を開発。肌触りの良さと優れた通気性が魅力だ。リラックス感のあるオーバーサイズも特徴的。1万9800円/ナナミカ(ナナミカ 代官山 03-5728-6550)


また和紙とその製造技術はまさにジャパントラディショナルであり、我々の生活と文化に深く根差したもの。

和紙素材のTシャツを着ることで、我々は日本の伝統文化の偉大さを身をもって知ることができるのだ。

「この快適さを一度味わえば誰もがやみつきになるはず。Tシャツとしてはまだまだ高価な素材ですが、この着心地とコンセプトに共感してくれるユーザーの数は、着実に増えてきています」(米﨑さん)。

作木正之介、Taichi=写真 星 光彦、野上翔太=スタイリング 加瀬友重、髙村将司、増山直樹、早渕智之=文

SHARE

次の記事を読み込んでいます。