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2022.06.12

ライフ

ユーミン、大滝詠一、竹内まりやetc. 大人の男女の恋愛観を、シティポップから読み解いた


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山下達郎、竹内まりや、大滝詠一、杏里……こういったアーティストの名前を見て、諸兄は懐かしいと思うだろうか。もしくはまったく聴いたこともないという世代もいるかもしれない。

今、こういった1970〜80年代に作られた“シティポップ”と呼ばれている日本の音楽が、世界中で注目されている。

シティポップとは、フォークや歌謡曲が全盛だった当時、洋楽に影響を受けて作られたポップスのことで、それが逆に今、アメリカやアジアで新鮮な音楽として受け入れられているのが面白い。
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YouTubeや音楽ストリーミングサービスを通じて世界中で再生され、欧米の大物アーティストたちが日本の楽曲を引用して新たなヒット曲を生み出している。

The Weeknd「Out of Time」


全米2位の大ヒットを記録したThe Weekndのアルバム『Dawn FM』(2022年)に収録された「Out of Time」は、亜蘭知子が'83年に発表した「Midnight Pretenders」をサンプリングした曲だ。

『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる!』(星海社)

『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる!』(星海社)


『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる!』の著書、栗本 斉さんによると、「シティポップの名曲が今になって受け入れられている理由は、メロディやアレンジはさまざまだが、主にサウンド面について語られることが多い。

しかし、シティポップは歌詞の世界観も特徴的。都会やリゾートを舞台に展開される大人の恋は、当時の若者にとって憧れの世界でもあった」とその魅力を話す。

そこで今回は栗本さんに、シティポップの人気曲から当時の恋愛観を読み解いてもらった。
語り手は……


栗本斉(くりもと ひとし)●1970年生まれ、大阪出身。レコード会社勤務時代より音楽ライターとして執筆活動を開始。退社後、中南米放浪の旅へ。帰国後、開業直後のビルボードライブでブッキングマネージャーを務める。現在は、フリーランスで雑誌やWEBでの執筆、ラジオや機内放送の構成選曲などを行う。著書に『ブエノスアイレス 雑貨と文化の旅手帖』(毎日コミュニケーションズ)、『アルゼンチン音楽手帖』(DU BOOKS)、共著に『Light Mellow 和モノ Special』(ラトルズ)などがあり、最新刊『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる!』(星海社)が好評発売中。

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ユーミン、松原みき、竹内まりやの王道3曲に見て取れる女性像は?

シティポップで歌われる恋愛観は、それまでの歌謡曲やフォークにおける湿っぽい感覚ではなく、もっとライトでアメリカナイズされたものと言ってもいいだろう。

とはいえ、そこには時代感や日本的な要素も感じられる。

松任谷由実「ルージュの伝言」(松任谷由実 CONCERT TOUR 宇宙図書館 2016-2017)

荒井由実「ルージュの伝言」が収録されたアルバム『COBALT HOUR』。


例えば、シティポップの代名詞でもあるユーミンこと荒井由実(松任谷由実)。

松任谷由実「ルージュの伝言」


彼女の代表曲のひとつであり、ジブリ映画『魔女の宅急便』でも使われた「ルージュの伝言」('75年)の歌詞を見てみよう。
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この曲の女性は、浮気症の彼氏にお灸をすえるために、彼のママに会いに行くという設定だ。

オールディーズ風の軽快な曲調やポップな言葉遣いからすると“幼い感覚のカップル”、といった感もあるがそうではない。

彼と彼女は親公認の同棲、もしくは結婚したカップルであり、「バスルームに ルージュの伝言♪」という一節からも、大人の女性が主人公であることがわかる。

あえてライトに振る舞っているが、たそがれ時にひとりで列車に乗って彼の母親のもとに向かう不安な気持ちがよく描かれており、逆に遊び人な彼への想いが浮き彫りに。

この曲には、気持ちとは裏腹に強がる女性が描かれている。 

松原みき「真夜中のドア~stay with me」

松原みき「真夜中のドア~stay with me」が収録されたアルバム『POCKET PARK』。


「ルージュの伝言」は少し古風な一面もあるが、もう少し現代的でウェットな恋愛観を味わうなら、松原みきの「真夜中のドア~stay with me」がいいかもしれない。

松原みき「真夜中のドア~stay with me」


この曲は'79年に発表された彼女のデビュー曲だが、40年以上もの時を経てリバイバルヒットし、世界各国のチャートにランクインするという異例の現象が起きた。まさに、シティポップ再評価の象徴と言ってもいいだろう。

当時のディスコサウンドに乗せたダンサブルなナンバーだが、描かれている恋愛は少々ドライだ。

「私は私 貴方は貴方」や「恋と愛とは違うものだよ」といった会話から割り切った関係に見えるふたりだが、主人公の彼女は常に「貴方を感じていた」と歌う。そして別れた季節を忘れられずにいる。

スタイリッシュな感覚のようでありながらも、未練たっぷりな気持ちが隠されているのだ。

竹内まりや「Plastic Love」

竹内まりや「PLASTIC LOVE」が収録されたシングル。


もっとドライな女性を描いた名曲というと、竹内まりやが'84年に発表した「PLASTIC LOVE」が筆頭だろう。

竹内まりや「PLASTIC LOVE」


この曲もブラックミュージックに影響を受けたサウンドが受けて、海外でのシティポップ・ブームを牽引した一曲だ。

主人公の女性は夜遊びに興じて、「恋なんてただのゲーム 楽しめばそれでいいの」と強がるが、実は別れた彼のことが忘れられない。

しかも、ディスコで知り合う男性はいつも彼に似ていて「なぜか思い出と重なり合う」ため、ときには涙ぐんだりしてしまうのだ。

竹内まりやに限らず、当時の楽曲にはこういったタイプの女性がよく登場する。

恋愛はあくまでも遊びと言いながらも、実は本当の愛に飢えている、恋愛ベタという女性像は鉄板だ。

昼間はサーフィンやテニス、夜はディスコといった'70~'80年代の若者文化の裏には、気軽にナンパするようなシチュエーションも数多くあり、軽薄な恋愛がはびこっていた時代でもある。

それだけに、本当の恋とは、真の愛とは、といったメッセージが密かに込められた楽曲は、当時の女性たちに共感を得ていたのではないだろうか。
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