ユーミン、松原みき、竹内まりやの王道3曲に見て取れる女性像は?
シティポップで歌われる恋愛観は、それまでの歌謡曲やフォークにおける湿っぽい感覚ではなく、もっとライトでアメリカナイズされたものと言ってもいいだろう。
とはいえ、そこには時代感や日本的な要素も感じられる。
荒井由実「ルージュの伝言」が収録されたアルバム『COBALT HOUR』。
例えば、シティポップの代名詞でもあるユーミンこと荒井由実(松任谷由実)。
松任谷由実「ルージュの伝言」
彼女の代表曲のひとつであり、ジブリ映画『魔女の宅急便』でも使われた「ルージュの伝言」('75年)の歌詞を見てみよう。
この曲の女性は、浮気症の彼氏にお灸をすえるために、彼のママに会いに行くという設定だ。
オールディーズ風の軽快な曲調やポップな言葉遣いからすると“幼い感覚のカップル”、といった感もあるがそうではない。
彼と彼女は親公認の同棲、もしくは結婚したカップルであり、「バスルームに ルージュの伝言♪」という一節からも、大人の女性が主人公であることがわかる。
あえてライトに振る舞っているが、たそがれ時にひとりで列車に乗って彼の母親のもとに向かう不安な気持ちがよく描かれており、逆に遊び人な彼への想いが浮き彫りに。
この曲には、気持ちとは裏腹に強がる女性が描かれている。
松原みき「真夜中のドア~stay with me」が収録されたアルバム『POCKET PARK』。
「ルージュの伝言」は少し古風な一面もあるが、もう少し現代的でウェットな恋愛観を味わうなら、松原みきの「真夜中のドア~stay with me」がいいかもしれない。
松原みき「真夜中のドア~stay with me」
この曲は'79年に発表された彼女のデビュー曲だが、40年以上もの時を経てリバイバルヒットし、世界各国のチャートにランクインするという異例の現象が起きた。まさに、シティポップ再評価の象徴と言ってもいいだろう。
当時のディスコサウンドに乗せたダンサブルなナンバーだが、描かれている恋愛は少々ドライだ。
「私は私 貴方は貴方」や「恋と愛とは違うものだよ」といった会話から割り切った関係に見えるふたりだが、主人公の彼女は常に「貴方を感じていた」と歌う。そして別れた季節を忘れられずにいる。
スタイリッシュな感覚のようでありながらも、未練たっぷりな気持ちが隠されているのだ。
竹内まりや「PLASTIC LOVE」が収録されたシングル。
もっとドライな女性を描いた名曲というと、竹内まりやが'84年に発表した「PLASTIC LOVE」が筆頭だろう。
竹内まりや「PLASTIC LOVE」
この曲もブラックミュージックに影響を受けたサウンドが受けて、海外でのシティポップ・ブームを牽引した一曲だ。
主人公の女性は夜遊びに興じて、「恋なんてただのゲーム 楽しめばそれでいいの」と強がるが、実は別れた彼のことが忘れられない。
しかも、ディスコで知り合う男性はいつも彼に似ていて「なぜか思い出と重なり合う」ため、ときには涙ぐんだりしてしまうのだ。
竹内まりやに限らず、当時の楽曲にはこういったタイプの女性がよく登場する。
恋愛はあくまでも遊びと言いながらも、実は本当の愛に飢えている、恋愛ベタという女性像は鉄板だ。
昼間はサーフィンやテニス、夜はディスコといった'70~'80年代の若者文化の裏には、気軽にナンパするようなシチュエーションも数多くあり、軽薄な恋愛がはびこっていた時代でもある。
それだけに、本当の恋とは、真の愛とは、といったメッセージが密かに込められた楽曲は、当時の女性たちに共感を得ていたのではないだろうか。
3/3