ジョン・コルトレーン『ブルー・トレイン』©︎Alamy/amanaimages
色はさまざまな感情を呼び覚ます。英米では「ブルー」は悲しみを表現する色であり、かつてアメリカ南部のアフリカ系の人たちが歌う歌に悲しみを感じた人々は、それを「ブルース」と呼ぶようになった。
なぜ、そう感じさせたのか。それは西洋音楽とは違う、独特の音階で歌っていたから。その胸を打つ音階は「ブルー・ノート・コード」と呼ばれ、ジャズ、ソウル、ロックなど、その後のポピュラーミュージックに大きな影響を与えた。
「ブルー」は音楽にとって重要な色なのだ。そこでタイトルに「ブルー」を冠した名盤/名曲を振り返ってみよう。
彼らが生み出した神秘的なコードを、そのままレーベル名にした「ブルー・ノート」が設立されたのは1939年。
ブルー・ノートはさまざまな名盤を世に送り出した。そのうちの一枚、
ジョン・コルトレーンの『ブルー・トレイン』は、コルトレーンの才能が開花した記念すべきアルバムだ。
マイルス『カインド・オブ・ブルー』©︎Alamy/amanaimages
そして、そのコルトレーンの才能を見いだしたのがマイルス・デイヴィス。
マイルスの『カインド・オブ・ブルー』はモダンジャズの新しい形を完成させた。
この2枚のアルバムを聴けばジャズ特有のブルーさ、愁いを帯びた、それでいて官能的な空気感が伝わってくる。
ニーナ・シモン『リトル・ガール・ブルー』©︎Alamy/amanaimages
ジャズシンガー、
ニーナ・シモンのデビュー作『リトル・ガール・ブルー』で聴くことができる歌声もそう。
ブルースから生まれたジャズにとって「ブルー」は重要なテーマであり、そのイメージを深化させていった。
ジョニ・ミッチェル『ブルー』©︎Alamy/amanaimages
一方、女性
シンガーソングライター、ジョニ・ミッチェルの『ブルー』は、当時付き合っていたジェイムス・テイラー(彼もまた有名なシンガー・ソングライター)と別れた直後に制作された。
孤独や不安と向き合い、赤裸々に自分の内面を描いた本作は、彼女が「孤高のアーティスト」というイメージを決定づけた。
ボブ・ディラン『ブルーにこんがらがって』©︎Alamy/amanaimages
また、
ボブ・ディランの『ブルーにこんがらがって』という曲があるが、ディランはこの曲を「10年の人生を2年かけて曲にした」と語っている。
「ブルー」な感情はミュージシャンが自分自身と向き合うきっかけでもあるのだ。
ローリング・ストーンズ『ブラック・アンド・ブルー』©︎Alamy/amanaimages
また、
ローリング・ストーンズ『ブラック・アンド・ブルー』やRCサクセション『BLUE』というタイトルには、彼らの原点であるブルースやR&Bなどに対するリスペクトが伝わってくる。
ここでの「ブルー」はブラックミュージックを象徴する色だ。同じくそこに憧れを抱いてきたイギリスでは、’80 年代にパンク世代の若者がジャズをモダンなセンスで取り入れるムーブメントが起こる。
スタイル・カウンシル『カフェ・ブリュ』©︎Alamy/amanaimages
スタイル・カウンシル『カフェ・ブリュ』はそんな空気を反映したアルバムで、スタイリッシュなサウンドは「ブルー」は悲しみだけではなく、みずみずしさも感じさせる色でもあることを教えてくれる。
ニュー・オーダー『ブルー・マンデー』©︎Alamy/amanaimages
エレクトロニックな要素をいち早く取り入れたバンド、
ニュー・オーダーの’83年のヒット作『ブルー・マンデー』は、彼らの大切な仲間が自殺したことを知った月曜日のことを歌った、と言われている。
繊細なメロディーに「ブルー」なテイストを滲ませつつ、悲しみをダンス・ミュージックに昇華させているのはジャズに通じるところもあり、ひとつの曲にさまざまな感情を盛り込めることができるのは音楽のマジックだ。
「ブルー」な感情は、喜びや怒りよりも複雑で繊細。だからこそ、ジャンルを超えてミュージシャンを惹きつけてきたのだろう。つまり、「ブルー」は人間らしさを表す色なのかもしれない。