運命的な出会いと、心に留めておきたい教訓
「そうこうしているうちに子供ができたんです。それはすごい大きかったですね。そこで、目の前の“子育て”で最良の環境をやはり考えるじゃないですか。
僕は福島の思い出が強いので自然の中でのびのび育ってほしい。ただ、子供にとってはもしかすると都会の刺激的な空気を感じておくことも大事なのかなと。
だとすると、自然が身近にある環境で、すんなり電車で都心へも出られる場所が理想的に思えたんです」。
湘南のなかで、珍しい懸架式のモノレールが走るエリア。
自然、都市、そして地元の独自のカルチャーと、毛色の異なるさまざまな環境や選択肢を子供に与えられると考えた山本さんが選んだのは、湘南エリア。
そこで、藤沢、茅ヶ崎、鎌倉など、エリア内のあらゆる場所の物件を探し始めた。ただ、そこからがまた大変だったいう。
「家を湘南エリアで探し始めたのが2年ほど前から。そこから、予算の範囲内でいろいろと物件をオンライン上で探しては実際に足を運ぶ毎日でしたね。その軒数は20はくだらないと思います」。
とある調査では、一般的な夫婦がマイホームの購入までに内見をする軒数は平均5軒程度という。内見を終える大きな理由が、見れば見るほどわからなくなったり、内見にほとほと疲れてしまうためなんだとか。
ただ、山本さんはそれでも吟味に吟味を重ねたほうがいいと力を込める。
「不動産屋さんとの出会いやタイミングは大事。そういうタイミングや状況を掴むために努力はしたほうがいいと思います。
ただ家でWEB検索しているだけでは難しい。周囲の環境、屋内への日の入り方、広さの体感など、やはりWEBサイトで見るのと現地へ行って見るのとでは大幅に印象は違います。
基本的にサイト上ではマイナス要素は書いていませんから。言っても大きい買い物ですし、じっくり腰を据えて選ぶにこしたことはありません」。
そんな折、とある物件に目が留まる。
山本さんの目に留まった一軒。築年数は約40年。延床面積は約200平米ほどで6LDKの2階建て住宅だ。
「当初は予算オーバーだったんですよ。とはいえ、まあ見るだけ見に行ってみようということである不動産屋さんに連絡を入れました。
聞けば、どうやらそこはその不動産屋さんの社長の実家らしく、社長のお母様が名義人になっていました。
自然に囲まれたいい場所でいろんなご夫婦が見に来られるらしいのですが、一瞬テンションは上がるものの、結局はどちらかが難色を示すらしいんです。
緑が多いから虫も気になるでしょうし、宅地意外の庭や林の私有地が広いので管理も大変。何せ、全部で土地が600坪ほどありましたからね」。
内見に行った際の玄関の様子。
ただそこは、さまざまな不安要素はあったにせよ、それを上回るほどに山本夫婦の好奇心を触発する場所だった。
「僕らは興味津々で、夫婦二人で家からちょっと下った所にある敷地内の竹林などもくまなく見て回ったんです。これまで、夫婦でそこまで見に行く内見者はそうはいなかったらしいですけど(笑)。
しかも、名義人のお母さんはここをすごく大切にされていて、息子さんである社長も、なんとか説得して引っ越しをしてもらったらしいんです。
なので、売るなら大事にしてくれる人に売りたいとおっしゃっていました。お母さんにもお会いしましたけど、すごくいい方で、結果、僕たちを信用して頂けたのかなと思います」。
リフォーム前の1階の様子。畳の間と縁側がある典型的な和室の内装だ
「ここでも以前は犬をたくさん飼われていたようです。ただ、言っても予算はオーバーしていましたから決めあぐねてはいたんです。
それで、社長に相談したところ『予算はいくらくらいでお考えですか?』と逆に質問されて……。いろいろ計算した結果、これぐらいだったらという金額を提示させていただきました。
結果、その提示金額で快諾していただきましたけど、それでも決まるまで1、2カ月ぐらいかかりましたね」。
足で情報を稼ぎ、実際に何度も訪問しながら交渉した結果、予算内で理想の家を入社した山本さん。やはり数多くの物件を根気強く回ったからこそ、縁を引き寄せたのだろう。
DIYリノベ、現在の進捗状況は……
壁や床を抜き、スケルトン状態になった湘南の家の1階。
現在、仕事の空いた時間を利用し、湘南の家をセルフリノベする日々。
リノベーション後の完成イメージは正直そこまで明確ではなかった山本さんも、間取りを確認後は1階に撮影スタジオと寝室を設け、2階はLDKスペースと徐々に骨子も固まっていった。
天井も抜いて梁が剥き出しになった2階。
急だった階段は地元の工務店さんに傾斜を犬でも登りやすい角度にリフォームしてもらい、電気、ガス、水道のライフラインも開通。
今はやっと2階のすべての床に無垢材を敷き詰め、壁面全体を漆喰で塗り固め、2階は住める状態になっている。
DIYで床や壁の仕上げを終えた2階の様子。床にはパインの無垢材を、壁と天井には漆喰を塗っている。
勘のいい方ならもうお気づきだろう。そう、この空間には壁やドアが一切ない。それは、山本さんがこだわった部分でもある。
「家族が身近に感じられるよう壁をほとんど取り払いました。それは元から考えていたこと。そのため、ドアもひとつもつけていません。
子供が大きくなると、特に女の子ですからゆくゆくは欲しいというかもしれないですけど、まだ小さいので今のところはいいかなと。ドアがあるのはトイレとお風呂ぐらいですね(笑)」。
こちらも壁を取り払った1階。
「それに、犬は頭がいいので押し戸も引き戸も折り戸もすべて開けてしまいそのままにしてしまう。しかも、取っ手に爪をかけるのでもうドアを付けてもどうせすぐボロボロになるんですよ」。
その愛犬も今や体重は40㎏をゆうに超える。階段の昇降は脚に負担がかかることから、都度、山本さんや奥様がサポートする形になるがそれも限度がある。
そのため、将来的には1階にリビングを作ることも検討中とか。
2階の床の一部を抜いて吹き抜けに。気持ちいい光が1階まで降り注ぐ。
「犬のことを考えたら1階にリビングがあったほうがいい。ただ、2階のほうが陽は入りますし、1階はスタジオにして犬の写真館をやりたいという目的もあったので、生活するスペースは2階と決めたんです。
ただ違う選択肢も作っておこうと話し、いざとなったら1階で生活するためのキッチンを付けられるように配管をまわしてあります。その辺りはまだまだこれからですね」。
ライフスタイルの変化に合わせてアレンジを加える。そんな応用の幅もDIYリノベーションの強みといえる。
床に無垢材を貼る山本さん。かなり様になっているが、大事なのは「完璧を求めないこと」だという。
◇
とはいえ、場所の確定から着手まで思いのほか時間がかかったことからも分かるように、今に至る道のりは決して楽なものではなかった。
次回は、現在仕上げ工事の真っ最中である山本さんが、DIYリノベーションで直面した「着工前の落とし穴」についてお聞きする。