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作品をつくるのにアーティスト用のスタジオはいらない

M ここに暮らして仕事はどう変わったと思う?

A 変わったところもあるけど、まだ答えはわからない。でもずっと刺激的な体験になっている。ご両親の家で仕事するのは面白いよ。以前はかっこいいスタジオを持っていたんだ。でも今は、君の妹さんの子供部屋にある机に身体をつかえながら、本を作ったし、企画やオリジナルグッズの販売を行った。

M 寝てるところの目と鼻の先で。

A そのとおり。僕らのベッドの足下でね。22歳のときに最初のニューヨークのアパートで、ベッドの脇にある小さな机で仕事をしていたのとほとんど同じだよ。そして高級なものなんて仕事に必要ないっていうことの証だ。

アート作品を作るのにアーティスト用のスタジオはいらない。高価な道具もいらない。これは僕が信じているエトスそのものでもあるんだけど、とにかくそんなふうにまた生活しなきゃならなかったわけだ。

9カ月間、ふたりはクガさんの両親の家で作業をして、創造力が必要とされる仕事を物理的に制限のあるスペースで乗り切る方法を学んだ。

9カ月間、ふたりはクガさんの両親の家で作業をして、創造力が必要とされる仕事を物理的に制限のあるスペースで乗り切る方法を学んだ。


M どこでも仕事を生み出せるという君の指摘だけど、最初は、できるわけがないと感じていなかった?

A そうだね、状況を整理しなきゃならなかった。僕の仕事はこれまでずっとペンと紙だった。そうやって始めたし、それしかなかった、ほかのモノなんて買えなかったから。ブルックリンの小さなアパートにいた僕を覚えてる? 自分のZINEを手でホチキス止めしていた。

僕の仕事はこんなやり方で始まったんだ。だって手に入るものでやるしかなかったから。両親は裕福でもない。美術学校も行かなかった。改めて学んだのは、どこにいようと、どんな状況でもあるもので何でも作れるってこと。

僕は『You are Here (for Now)』の残りを、この家のあちこちで書いた。この部屋に折りたたみ机を広げてその上ですべてのアートワークの写真を撮った。基調講演をリモートでやったときは、ベッドを向こうに動かしたんだ。

そうしたら壁の前に立つことができるから。僕の本は、視覚的な面ではわざと緩い感じにしている。手書きの文字みたいな緩さに。実際に手書き文字は入念にチェックして、生々しさを出すために書き直したりもした。

「2019年の僕の生活から飛び出して新しい生活にいくらか慣れ、ハワイにいることでたくさんの安らぎをもらっている」とカーツさん。

「2019年の僕の生活から飛び出して新しい生活にいくらか慣れ、ハワイにいることでたくさんの安らぎをもらっている」とカーツさん。


A ここにいることについてどう思う? 間違いなく正しい選択をしたと感じている?

M 両親と過ごす時間が本当に気楽でいい気分なんだ。この感覚は、休暇中やすぐに出発しなきゃってときには生まれない。僕らがここにいる結果として、両親の見え方や彼らの生活が変わるよね。君と両親の関係も、それが変わっていく様を見て、とても心を動かされる。本当に静かな瞬間だけどね。そうじゃない?

A 本当に。ご両親がとても優しいんだよ、仕事のことを僕に尋ねてくれるんだ。僕がオンラインで買った折りたたみ式の写真スタジオの中で、君の本のために写真を撮影していたら、ご両親がやってきて、僕が何をやっているのか見てくれて。

さりげないけど僕にはとっても響いたんだ。もしかしたらご両親を喜ばせたいのかも。ご両親にも僕の作品作りの一部になってほしい。僕の人生は、こんなヘンテコで冴えないアーティストなんだけど、ご両親に直接見てもらえたらいいなって。

カーツさんの新著『You are Here (for Now)』は、昨年体験した生活の変化があってできた本。

カーツさんの新著『You are Here (for Now)』は、昨年体験した生活の変化があってできた本。


2019年の僕の生活から飛び出して新しい生活にいくらか慣れ、ハワイにいることでたくさんの安らぎをもらっている。それに、君とだって今まで以上につながりを感じている。僕はひとりじゃなくて、この家族がいて、僕を支えてくれているんだ。

M ここで生活して、本当に家族の意味とかその先にあるものへの愛情がわかるようになった。僕らはこの点を哲学として理解しているように思う。ここで一緒に暮らすことは、この哲学の新しい段階だって感じるんだ。お互いに頼り合っているところもあるし。

A それに信頼も。

「両親と本当に気楽でいい気分で過ごす瞬間に、自分の決断が間違っていなかったと実感する」とクガさん。「本当に静かな瞬間だけどね。そうじゃない?」

「両親と本当に気楽でいい気分で過ごす瞬間に、自分の決断が間違っていなかったと実感する」とクガさん。「本当に静かな瞬間だけどね。そうじゃない?」


A 僕らはふたりともアーティストタイプで、作品を作りながら生活をしている。今持っている感情を何か五感に訴えるものに変えてね。この期間に取り組んでいる僕らの本は、どれもこの大きな人生の転換を乗り切る助けになった。

M 僕らがよく話すのは、ワークライフバランスのこととか……。

A (笑)なんで矛先を僕に向けるのさ?

M だって、ふたりともなんだかんだで自分の仕事でアイデンティティを見いだそうとしがちでしょ。君のワークライフバランスが変わったと思っている?

A 僕は、バス・ブックショップで2月まで行われたイベントを楽しみにしていた 。僕がやっているクリエイティブな作品なんだけど、販売目的ではなかったんだ。作りたいからアート作品を作り、新しいやり方で自分の人生を絡み合わせている気分だった。要するに、等身大の僕をハワイのクリエイティブコミュニティに紹介したんだ。

そんな機会を持てたのはとても良かった。僕はここでは新入りだから。このクリエイティブコミュニティの中で自分のやり方を見つけたい。つながって、ものを作りたい。あの時の作品が僕を広げてくれて、僕もここに住んでいる人間なんですよ、と自己紹介をする機会になった。

クリスマスにポップアップショップをやりにニューヨークからやってきたスペシャルゲストなんかじゃないんだと。そうじゃない。僕はここにいるし、よろしくねと伝えられたんだ。
This article is provided by “FLUX”. Click here for the original article.

このインタビューは長さと読みやすさを考慮して編集しました。

ミッチェル・クガ、アダム・J・カーツ=文 ジョン・フック=写真
上林香織=翻訳

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