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グランドセイコーの誠実さを示すエピソードとは?


広田雅将●1974年、大阪府生まれ。腕時計専門誌「クロノス」編集長。腕時計ブランドや専門店で講演会なども行う業界のご意見番である。その知識の豊富さから、付いたあだ名は「ハカセ」。


安藤 グランドセイコーには、メカニカル、スプリングドライブ、クオーツと3つの心臓があるわけですが、海外の人からするとやはりメカニカルが人気という感じなんでしょうかね。

広田 どれもいいけど、やっぱりそうかもしれませんね。

安藤 セイコーの高級機械式時計に関していうと、1960年代の時点で、本場スイスで行われていた精度を競うコンクールで上位を独占するほどの評価を得ています。そうしたコンクールで受賞した機械が搭載されたモデルもありますし、現在の9Sメカニカルはその延長線上にある。

「グランドセイコー ヘリテージコレクション SBGJ203」 GMT機能を備えたハイビート(10振動)cal.9S86搭載モデル。ダイヤルにはグランドセイコーのメカニカルモデルを生む、雫石高級時計工房から望む「岩手山」の山肌を表現したパターンが施されている。「グランドセイコー ヘリテージコレクション SBGJ203」SSケース、40mm径、自動巻き。67万円/グランドセイコー 0120-302-617


広田 あまりにセイコーが上位を独占してしまったので、1960年後半にはコンクール自体がなくなってしまったんですよね。

安藤 時計の世界では最近、完全自社生産を意味する「マニュファクチュール」という言葉があふれているんですけど、本当の意味ですべてを作れている時計メーカーは数社しかありませんよね。

広田 マニュファクチュールには順序みたいなものがあって、いちばん初歩的なクラスは時計の設計ができるけど、部品は外部から調達に頼っているメーカー。次のクラスになると今度は、大きな部品が作れるようになります。さらに小さな部品が作れるようになるとひとつレベルが上がり、その次が心臓部を作れるメーカーということでしょう。

安藤 そこまでくると胸を張ってマニュファクチュールと言えますね。

広田 そう、でも、実はさらに上があって、部品に使う素材までコントロールできるかどうかが鍵を握る。そこまでできるところって、本当に世界でいくつもないですよ。セイコーは間違いなくそのひとつだと思います。

安藤 そこまでのマニュファクチュールだからこそ、特別なクオーツも作れるし、精度をクオーツ、駆動をメカニカルで行うというセイコー独自の技術スプリングドライブも生み出せた。

2004年にグランドセイコー専用機として誕生したスプリングドライブムーブメントcal.9R65。 2004年にグランドセイコー専用機として誕生したスプリングドライブムーブメントcal.9R65。現在も多くのモデルに搭載されている。


広田 スプリングドライブに関しては、セイコー以外にも同じことを考えたブランドはあったんです。ただ、量産化には至らなかったんです。

安藤 僕は1999年に発表された初代スプリングドライブを所有していたことがあるんですが、当時はクレドールとセイコーブランドのモデルしかなかった。グランドセイコーへの搭載はそれから5年後の2004年ですよね。

広田 そう、すぐには載せない。グランドセイコーとしての高い基準を満たしてはじめて載せる。そういうところも日本らしいというか、グランドセイコーが評価される理由なんだと思います。


※本文中における素材の略称:SS=ステンレススチール

【問い合わせ】
グランドセイコー 0120-302-617

関 竜太=写真 いなもあきこ=文

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