OCEANS

SHARE

2022.02.07

あそぶ

野村訓市さんに聞いた「旅に持っていく道具って何ですか?」

自分のコラムでも書いたのだけど、常に旅に持っていく道具なんてない。
あるとすればiPhone、クレジットカード(もはやいらないかもしれないが)、そしてパスポート。それさえあれば事は足りるのだから。そして出かけていく旅先の気候さえわかっていればあとは普段着でいいのだ。


旅だからだとガジェットを増やしたり、あらゆるものを旅用にして揃える人がいるが、はっきりいって馬鹿だと思う。

旅先では俺も一旅行者なので偉そうなことは言えないのだが、例えば同じ街を延々と繰り返して訪れていると、普通に誰が現地に住む日本人で、誰が旅行者かが一目瞭然でわかるようになる。

気張った格好をしていたり、余計なカバンだの何だのを身に着けているからだ。誰もそんなものを持ってたり、着飾っていない街角でそんな人がいたら圧倒的に目立つ。そしてそういう目立ち方は完全によろしくない。

スリには格好の餌食に見えるし、店に入ったって一見の観光客かと見下されるのがオチだ。いつまた訪れるかもわからない観光客を地元の常連より大事にする店など残念ながらないのだから。

東京でちょっと緊張するちゃんとした飯屋があったとする。最初は気張ったりするだろうが、何度か行くうちにテンションの度合いもわかってくる。

あまり砕けた格好はだめだけれども、シンプルでこざっぱりしたものなら店の人も良い接客をしてくれるとか。周りの客層を見渡しているうちに大体の空気感というのはわかるものだ。

そこに香水を浴びるほどつけた女と、ギラギラした格好の男が現れるとする。

ごつい時計に下品な靴、小脇にはバックなどを抱えている。とても常連には見えないし、多分金を持った一見客だろうとみな思うだろう。別に常連ヅラをしたいわけじゃないが、あれはこの店には合わないねと。

旅先でついつい盛った格好をする観光客とはまさにこの男と一緒なのだ。自分じゃ普通だと思っていてもまったく違う。

じゃあどうすればいいのか? そりゃあ普段のままでいいに決まってる。自分が普段よく着るもの、使うものをそのまま持ち込めばいい。何も特別なことをする必要はないのだ。

あれもこれも持ち歩く必要はない。雨が降るかもしれないと普段からいろいろと準備して東京を歩くか? しないでしょう。手ぶらのほうが何かと楽なもんです。

雨が降ったらどこかで雨宿り。そのくらいの心構えのほうが気分ははるかに軽くなる。そういうものでしょう?

もちろん旅の荷物を入れるケースにこだわる人もいると思うが、それだって出かける期間に合わせて変えればいい。2日でも1週間でも同じスーツケースを使う人もいるけれど、邪魔じゃないのかなぁと見ていて思う。

夏のニューヨークにトートバックで行ったこともあるけれどまったく困らなかった。逆に荷物が少なすぎて税関で怪しまれたけれど。

旅慣れていない若い頃は何が必要かわからなくていろいろとバックパックに詰め込んできたけれど、年を重ねた今こそ気付くべきだ。体ひとつで心軽くしていくのが旅だと。

野村訓市=文 平沼久幸、藤崎 亘=イラスト

SHARE