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現在は9人家族で全員無職。目下の悩みは生活費


その後、ひとり目の彼氏とは破局するも、2017年6月、美香さんはたくちゃんと恋に落ちる。そして、ほどなく同居。意外にも、同居は朋広さんが望んだことらしい。

朋広さん「当時、仕事が本当に忙しくて、家事や育児は美香に任せっきりになっていました。そこで、たくちゃんが住んで家のことをサポートしてくれたら助かるなあと。彼は定職についていなかったので、家賃もいらないから住んでよって、そんな感じですね」。

そして今年3月からは、さらにすごい展開に。夫婦の友人であるシングルマザーのMさんが、3人の子供を引き連れメンバーに加わったのだ。ポリアモリーに“大家族”の要素も加わり、さらにカオスなコミュニティの誕生である。

美香さん「彼女がうちの近くで用事があったときに泊まってもらったら、お互いにすごくしっくりきて、なんとなくこのまま一緒に住もうかって話になりました。いきなり10歳、8歳、3歳の子供たちも増えて、ちなみに全員女子なんですけど、毎日にぎやかで楽しいですね」。
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朋広さん「Mさんは家事好きで、料理、洗濯、洗い物まで全部やってくれるので助かっています。家事問題は、完全に解決しました(笑)。ちなみにMさんと私は恋愛関係ではありません」。

ただ、ひとつ問題がある。じつは昨年末に朋広さんが、育児を優先するため会社を辞めたことで、家族全員がほぼ無職・無収入という状態が約半年続いているのだ。

朋広さん「おまけに9人家族になってから、生活費がものすごく膨らんでしまって……。育ち盛りの子供たちが増えて食費もすごいし、水道代も3倍以上。支出は月々40万円くらいです。今は貯蓄を切り崩していますが、限界は目に見えているので……。このままだと解散もやむなしかなと。今はわりと危機的状況ですね。私は働きたいと思っているので、その状況を作るために話し合っているところです」。

美香さん「彼はこう言っていますが、私はそんなに危機だとは思っていません。解散なんかしなくても、いざとなったら家を売ってみんなで田舎に引っ越せばいいと思ってて。自給自足でなんとかなるやろって。そこは、夫となかなか価値観が合わないところですね。まあ、仮にみんながバラバラに住むことになっても、それは解散じゃなくて『拠点が増える』って考えればいいんじゃないですかね」。



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批判よりも、共感の声に耳を傾けたい


それにしても、一般的には理解を得づらいであろう状況を、顔出しで、こうもあけすけに話せるのは信じがたい部分もある。こうした取材を受けることで、批判や誹謗中傷を受けるリスクもあるだろう。実際、「子供に悪影響だ」と非難されたこともあるという。

朋広さん「子供がかわいそうとか、いじめに遭ったらどうするのとか、よく言われるんですけど、そこはあまり心配していません。いじめの原因なんて他にも山ほどあって、それを考え始めたらきりがないと思っています」。

美香さん「あとは娘たちの恋愛感がおかしくなったらどうするの? という批判も多いですね。でも、恋愛って衝動だから、親がコントロールできるようなものでもないと思うんです。そもそも私は自分たちの価値観が一番素晴らしいとも思ってないですし、娘たちに押し付けようともしていない。最終的には本人が自分で考えて、どう折り合いをつけるか。結果、一夫一妻制の家庭を選ぶなら、それで全然いいと考えています」。

「それに……」と美香さんは続ける。
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美香さん「批判の一方で、共感してくださる方も多い。ポリアモリーに限らず、“特殊”であるがゆえに苦しんでいる人から『勇気をもらった』という声をいただくことも増えました。昔は自分を抑えつけて良い人に見られようとしていたけど、今は真逆。批判されそうなことでも堂々と発信してしまおうと。そうすることで、同じく批判を恐れて何かを我慢している誰かの自信につながるなら……、それを狙ってやっているわけではないけど、やっぱりうれしいですよね」。


100%思い通りになる未来はない。だから「どこも目指していない」


この先、美香さんとたくちゃんの間に子供ができる可能性もある。逆に、別れることになるかもしれない。どう転ぼうと、そのときはそのとき。誰しも100%思い通りには動かせない未来について、深く考えることは意味がないと美香さんは言う。「そもそも、私はどこも目指していません。今はただ、みんなでこの状況を楽しんでいる。それでいいと思っています」と、なんとも潔い。

刹那的で、計画性のない人生。しかし、それゆえ将来への不安もプレッシャーもない。「今はすごく気分がいいです」と語る美香さん、それを見て頷く朋広さんのおだやかな表情が印象的だった。

 

 

榎並紀行(やじろべえ)=取材・文

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