人間工学に基づき設計されたワークチェアの傑作、アーロンチェア。1994年の登場以来基本的なデザインを変えることなく、今も世界中のオフィスで愛用されている椅子である。
まさに永久欠番的不変の名品なのだが、実は着々と時代に即した進化も遂げている。それはサステイナブルという側面において。
一見しただけではわからないが、実はフレームに「海洋プラスチック」を使用しているのだ。ここで言う海洋プラスチックは、海岸線から50kmで見つかる、不適切な処理や投棄から生まれた廃棄プラスチックのことで、海への流入を阻止する目的がある。
ペットボトルや食品トレー、漁業用の網にいたるまで、現在年間800万t以上のプラスチックごみが海に流入しているという。これはなんと、毎分収集車1台分のプラスチックが海に捨てられている計算になるのだ。
そんな問題を解決するために、アーロンチェアを扱うハーマンミラーは長期的な目標を設定。2030年までに、海洋プラスチックを含めたリサイクル素材の使用率を50%以上に引き上げるというのである。当然、ブランドを代表するプロダクトであるアーロンチェアにも積極的に海洋プラスチックを活用したというわけだ。
写真の新色「オニキスウルトラマット」には、一脚あたり最大1.13kgの海洋プラスチックがフレームやチルト(調節レバー)カバーに使われることに。
もちろんその美しいデザインも極上の座り心地も、いっさい変わることはない。つまり身体にとっていい製品であるアーロンチェアが、海の環境にもいい製品に進化したのである。
変わることのない美しい傑作チェアが、変わることのない美しい海を残すために貢献する。そんなストーリーにも心打たれる。
それに実際に海まで足を延ばさずとも、この椅子に座っているだけで海に思いを馳せることができる。海を愛する者にとっては、それだけで幸せじゃないか?
加瀬友重=文