「若い頃は服も時計も、まるで興味がありませんでした。というか、知らなかったんです。ほとんど四国から出たこともないような田舎者でしたから」。
そう語るのは元プロサッカー選手であり、現在はサッカー解説者である福西崇史さんだ。
瀬戸内海に面した愛媛県新居浜市生まれの少年は、高校を卒業後にプロサッカー選手となる。その後の栄光はご存じのとおりだが、最初に所属したジュビロ磐田の先輩たちからはピッチ上の立ち居振る舞いとともに大人の嗜みも教えられたという。
「名波(浩)さんも(藤田)俊哉さんも実はかなり時計が好きで、彼らの影響を受けました。欲しいなと思う時計の目星をつけて、タイトルを勝ち取った証しとして一本時計を手に入れる。そうやって自分なりに頑張ってきたつもりです」。
福西崇史さんにとって時計とは、自らが残した結果を証明してくれるモノ。だからこそいい時計にこだわり、しだいにブレゲに惚れ込んだ。
天才時計師である発明家アブラアン-ルイ・ブレゲの独創性、トップレベルの作り込み、優雅なプロポーション。そんな魅力の虜となり、2004年には早くも2本目となるブレゲを購入する。
前年度の天皇杯でチームは優勝、自身は4度目のJリーグベストイレブンに選ばれた“ご褒美”が、この「マリーン」だった。
「当初はK18YGケースのモデルを狙っていたんですが、K18WGも念のため見せてもらったら、ダイヤルに“293”の数字が。293、フクサン。僕の愛称と同じ番号に運命を感じて、こっちに即決しました」。
以降、ピッチ外での相棒はもっぱらこの時計が務める。それは、現役を引退した今も変わらず。
由緒正しいマリーンクロノメーターを出自とする時計は、春夏のアクティブシーンはもちろん、そのエレガンスゆえジャケットスタイルにも相応しい。サッカー解説者として世界中を忙しく飛び回る福西さんの腕元に、確かな品格を添えた。
「全体的にはシンプルなんですが、特有のギョーシェ彫りやブレゲ針を利かせたデザインが本当に気に入っていて。純正のラバーベルトは今のホワイトで3本目です。最初はネイビー、その次がブラック。付け替えるたびに印象が変化するのも楽しいですね」。
スポーティでいて華麗なルックスは、まさしく福西さんのよう。そう水を向けると、はにかみながらこう答える。
「でも、現役の頃から比べると1kg太っちゃったんです(笑)」。その爽やかさは、やはり「マリーン」顔負けだった。
※本文中における素材の略称:K18=18金、YG=イエローゴールド、WG=ホワイトゴールド
川西章紀=写真 増山直樹=文