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2021.02.21

ライフ

後世に残すべき手仕事。日本人デザイナーが手掛けた“使い手に寄り添うインテリア”

ノンネイティブのデザイナー藤井隆行さんとギャラリー サイン代表・溝口至亮さんによる対談「ぼくらがモノを買う理由」。
これまでインテリアの歴史実際に物を選ぶときのポイントについて伺ったが、ラストは日本人デザイナーとその技術について語ってくれた。
 

後世に残していきたい優れた日本の技術と手仕事

後世に残すべき手仕事。日本のデザイナーたちが手掛けた“使い手に寄り添うインテリア”とは
家主がいちばん長くいるキッチンには、チャンディーガルのプライベートレジデンスで使われていたジャンヌレの椅子や飾り棚を配置。「通常、これらはリビングの主役になるアイテムばかりなんですが、それをあえてキッチン脇に置くところが目を惹きます」。(溝口さん)
ギャラリー サイン
溝口至亮さん Age  43
ピエール・ジャンヌレやジャン・プルーヴェなど、フランスのデザイナーをはじめ、柳宗理や丹下健三など20世紀を代表する建築家のオリジナル作品を扱う「ギャラリー サイン」を運営。インテリアの歴史や背景に造詣が深く、専門雑誌に多く寄稿する。
ノンネイティブ ・デザイナー
藤井隆行さん Age 44
「洋服とは、人生を投影するための道具である」をコンセプトに、実用性に特化したニューベーシックを発信。厳選した素材と機能で現代に寄り添ったデザインは業界内にもファンが多い。元来のインテリア好きが、溝口さんの存在でさらに開花。連載「私的傑作批評」でも独自の審美眼を披露している。
藤井 家具って独特な存在でしょ。そこにあるだけで気持ちが高まる部分が大きいと思うんですよ。柳宗理や剣持勇をはじめ、日本の素晴らしい作家さんを溝口さんがたくさん紹介しているんだから、まずはそんな名品のレプリカから買うのも手段。
デザインを共有するって意外と大事だと思うんです。そうして、いつかチャンスがあって、お金もあれば、本物を買いたいと思うのは男心だしね。ちなみに、うちのインテリアの価値を、家族はほぼ知らないし(笑)。
[左]剣持 勇●1912年、東京都生まれ。32年、建築家ブルーノ・タウトに師事し、デザイン哲学の基盤を学ぶ。柳宗理、渡辺力、長大作らとともにジャパニーズ・モダンを提唱した。剣持デザイン研究所=写真協力 [右]柳 宗理●1915年、東京都生まれ。戦後まもなくデザインの研究に着手し、53年に柳工業デザイン研究会を設立。工業デザイナーとして数々の名作を世に送り出した。©︎Yanagi Design Office
溝口 あはは。そうですね。僕は、インテリアで歴史的なウンチクだけを語るのって苦手なんです。一緒に暮らしている家族にそういうことは大して重要じゃない。使っていて、いかに心地いいか、豊かな気持ちになれるかのほうがずっと重要だと思います。
自分の仕事を頑張って、そのご褒美として何かひとつ買ってみる。そして、それを使うことが喜びになればいい。以前、アンダーカバーの高橋盾さんが「家族が家具を使っているのを眺めながらお酒を飲むのが格別」とおっしゃっていましたが、それを聞いたときは僕も本当にうれしかったですね。
藤井 うんうん、わかる。インテリアってデザインの集大成だと思うんですよ。日々の生活のなかに在ることで、子供がともに育っていく意味合いも大きい。
服はあまりに身近すぎてそんなこと気にも留めないけど“この椅子のココってどうしてこんなデザインなんだろ”って、知らず知らずのうちに気になったりね。価値はわからなくても、感覚で捉えていく。
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個人邸のために製作されたシャルロット・ペリアンのキャビネット。当時2台しかなかった稀少なものに、荷物を無造作に置いているところも新鮮。「搬入時、建物のエレベーターに入らなかったので部品をすべてバラしたんですが、戻すのに12時間もかかった思い出が」。(溝口さん)
溝口 あと、雑誌を見ていると、海外のVIPの住まいが載っていることがあるでしょ。そういうのを見て、勝手に親近感湧いたりしませんか?
藤井 わかる、いろいろつながるよね。カニエ・ウェストを好きな人がいて、雑誌で自宅が載っていたとして。“あ、こういう椅子に使っているんだ。へ〜、これがジャンヌレの椅子ね”って。それだけでその椅子が興味の対象になったり。
逆に、カニエを好きじゃない人がジャンヌレを使っている姿を見て好印象に変わったり。勝手に、いろいろなことを共有できる貴重な世界。だからこそ、優れた作品は受け継がれていくべき、という気持ちが強いです。100年、200年後も残っていてほしい。洋服の工場も同じなんですよ。優れた技術は潰しちゃいけない。
溝口 そうですね、海外に出ると、いかに日本の作品や手仕事が素晴らしいかを再確認します
藤井 本当にそう。日本の手仕事には圧倒されます。ジョージナカシマの作品を手掛ける桜製作所や、天童木工の技術も素晴らしい。
溝口 昔つくられた優れたデザインというのは、必然的に今も残っていることが多いんです。有名・無名にかかわらず、手仕事の良いものは、その時代ごとの誰かしらにバトンが渡されていく。
僕らもそれが現行品だろうが、ヴィンテージだろうが、引き継いでいきたいと思っています。それが作家にとってもいちばんうれしいことだと感じるから。
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