「自宅を楽しい場所No.1計画」特集 Vol.36
2021.02.20
LIFE STYLE

インテリア選びの正解「数年後の価値よりも、心地いい感覚を優先する」

ノンネイティブ・デザイナーの藤井隆行氏と、その友人でギャラリー サインの代表・溝口至亮氏がインテリアについて語る企画「ぼくらがモノを買う理由」。

第2回では物選びのポイントや、溝口氏のギャラリーで扱う作品について伺った。

第1回 インテリアの歴史編はこちら

まずは日用品から自分の好きなデザインを知る

インテリアってどう選ぶのが正解? ヒントは“自分の好きなデザインを知る”ことだった
メキシコ大学の学生寮で使われていたメキシカンブックケースの色彩が、白壁と木造を基調とする空間にメリハリを与える。「この本棚は、日本の桂離宮や修学院離宮の“かすみ棚”から着想を得てつくられたというエピソードも。そこにポップなキャラクターを並べるセンスも目を惹きます」(溝口さん)。その横にはさりげなくイサム・ノグチの照明をコーディネイトする。

ギャラリー サイン
溝口至亮さん Age  43
ピエール・ジャンヌレやジャン・プルーヴェなど、フランスのデザイナーをはじめ、柳宗理や丹下健三など20世紀を代表する建築家のオリジナル作品を扱う「ギャラリー サイン」を運営。インテリアの歴史や背景に造詣が深く、専門雑誌に多く寄稿する。

ノンネイティブ ・デザイナー
藤井隆行さん Age 44
「洋服とは、人生を投影するための道具である」をコンセプトに、実用性に特化したニューベーシックを発信。厳選した素材と機能で現代に寄り添ったデザインは業界内にもファンが多い。元来のインテリア好きが、溝口さんの存在でさらに開花。連載「私的傑作批評」でも独自の審美眼を披露している。

藤井 高額なインテリアに手が出ない人は、何から始めるのがいいの?

溝口 そうですね、いきなり棚や椅子からではなく、食器から入ってもいいと思うんですよ。この料理をもっとおいしく食べるために、ちょっと良い食器を揃えてみよう、とか。おいしいコーヒーが飲みたいから、このエスプレッソマシンを買ってみよう、とか。そんな動機から動いてみては。

藤井 そして、そのマシンを黒にするか白にするか、空間に合わせるセンスも必要ってことですね。やっぱり空間の捉え方って大切だと思う。

溝口 そうですね。僕も空間のバランスがすべてだと思います。

藤井 好きなテイストがわかっても自宅の家具をまるっと入れ替えるのは無理だからね。あと、今のライフスタイルにも合わせていかなきゃいけないし。「この椅子、貴重だから座らないで」って子供に言うのもおかしな話だし。

だから、僕は服もモノもタフなものが良い。キズがついても“まぁ、いっか。味になる”と思えるものが好きです。高額だから大切にしたいのもわかるんだけど、使い込んで大事にするほうがずっと健康的。

溝口 一緒に住む人の理解も必要ですしね。

藤井 確かに。自分が好きでも、家族が使いにくかったら意味がない。そういう意味では、日本の家に住むのだから日本のインテリアデザインを学ぶのも手段ですね。

NEXT PAGE /

先の価値にとらわれない心地いい感覚を優先する

1930年代、ジャン・プルーヴェが初期の頃に手掛けたデイベッドをTVの前に配置。プルーヴェが初めて自身の工房をつくり、作品のセールスをスタートさせた際、数多く納品をしたという印象深い作品。ここで寝転んでTVを見る時間は最高の贅沢に。

溝口 状況にもよりますが、メールだけで作品の注文が入ると、少し不安になることもあります。今まで誰かに使われてきた作品が次の場所でどう家族の一員のようになっていくか、できる限りお客さまと一緒に考えるのが楽しみなんです。

作品リストだけを希望され、カタログ的に買われるのは不安というか少し寂しく感じますね。

藤井 ロレックスと同じですね。「これ、3年後にはいくらになっています?」っていう世界。本当に素晴らしいデザインであることの証拠でもあるんだけど、そこだけを追いかける人も多いんだろうね。

溝口 その人のライフスタイルに合うと思ってこちらが提案しても、数年後の価値をすぐ聞かれると気持ちがちょっと落ちます(笑)。

藤井 デザインに惹かれているのか、価値に惹かれているのかわからないよね。ヴィンテージにはつきものの質問だけど。

溝口 だからこそ、僕らがどうやって作品を見せていくかが大切だと思います。こちらが作家さんを評価していく立場でもあるので。

藤井 そうですね。ロレックスは本人しか使わないけど、インテリアは家族みんなで共有するし、遊びに来た友人だって使うから。

溝口 そうですね。そして、モノにも家族同様、ストーリーがあるんです。例えば、長らく二脚で使われていた椅子と出合ったんですが、それを別々に販売しようとは思わなくて。

一脚ずつのほうが価格的にもお客さまが買いやすいのはわかるんですが、やはりモノには歴史がある。長く一緒だったものを離ればなれにさせたくないという気持ちがあります。

藤井 なるほど、いいですね。作品の背景をそういうふうに捉える溝口さんの姿勢が勉強になる。

NEXT PAGE /
[左]シャルロット・ペリアン●1903年、フランス生まれ。ペリアンが手掛けた作品がル・コルビュジエの目に留まり、27年から彼のアトリエに参画。柳宗理とともに約1年ほど日本を旅したこともある。ⒸGetty Images [右]マーク・ニューソン●1963年、オーストラリア生まれ。インテリアのみならず、家電やファッションなど、ジャンルレスに幅広く活躍している世界的デザイナー。80年代には東京にも在住していた。ⒸGetty Images

ーーちなみに、溝口さんのギャラリーで扱う作品は、昔からピエール・ジャンヌレやシャルロット・ペリアンが中心だったんですか?

溝口 店を立ち上げた頃は、それこそヴィンテージが下火だったんです。どちらかというとコンテンポラリーなデザインが右肩上がりで、マーク・ニューソンなどが人気でしたね。

そういう世界観ももちろん良かったけど、僕らがやっても意味がないかな、と。根っこの部分としては、ヴィンテージからインテリアの世界に入った身なので、やはりそこを基盤にしようと。

ただ、プルーヴェなどのフランスのインテリアも扱ってはいましたが、それと同じぐらいアメリカや北欧、イタリアなど、世界中のモノをオープン当時は揃えていました。良いデザインに出合える場所にしたかったので。

ジャン・プルーヴェ●1901年、フランス生まれ。金工職人としてキャリアをスタートさせ、’31年に自身のアトリエを設立。ル・コルビュジエやシャルロット・ペリアンら、同世代デザイナーから称賛を浴びた天才。ヴィトラ=写真協力

藤井 そうだったんですね、知らなかったです。ちなみに、僕はレプリカでもいいと思うんですよ。本物を買えるならそれに越したことはないけど、価格的に難しいことだってあるから。

溝口 なるほど、そうですね。

 

溝口至亮(ギャラリー サイン)=写真 仁田ときこ=文

# インテリア# 家具# 藤井隆行
更に読み込む