OCEANS

SHARE

先の価値にとらわれない心地いい感覚を優先する

1930年代、ジャン・プルーヴェが初期の頃に手掛けたデイベッドをTVの前に配置。プルーヴェが初めて自身の工房をつくり、作品のセールスをスタートさせた際、数多く納品をしたという印象深い作品。ここで寝転んでTVを見る時間は最高の贅沢に。
溝口 状況にもよりますが、メールだけで作品の注文が入ると、少し不安になることもあります。今まで誰かに使われてきた作品が次の場所でどう家族の一員のようになっていくか、できる限りお客さまと一緒に考えるのが楽しみなんです。
作品リストだけを希望され、カタログ的に買われるのは不安というか少し寂しく感じますね。
藤井 ロレックスと同じですね。「これ、3年後にはいくらになっています?」っていう世界。本当に素晴らしいデザインであることの証拠でもあるんだけど、そこだけを追いかける人も多いんだろうね。
溝口 その人のライフスタイルに合うと思ってこちらが提案しても、数年後の価値をすぐ聞かれると気持ちがちょっと落ちます(笑)。
藤井 デザインに惹かれているのか、価値に惹かれているのかわからないよね。ヴィンテージにはつきものの質問だけど。
溝口 だからこそ、僕らがどうやって作品を見せていくかが大切だと思います。こちらが作家さんを評価していく立場でもあるので。
藤井 そうですね。ロレックスは本人しか使わないけど、インテリアは家族みんなで共有するし、遊びに来た友人だって使うから。
溝口 そうですね。そして、モノにも家族同様、ストーリーがあるんです。例えば、長らく二脚で使われていた椅子と出合ったんですが、それを別々に販売しようとは思わなくて。
一脚ずつのほうが価格的にもお客さまが買いやすいのはわかるんですが、やはりモノには歴史がある。長く一緒だったものを離ればなれにさせたくないという気持ちがあります。
藤井 なるほど、いいですね。作品の背景をそういうふうに捉える溝口さんの姿勢が勉強になる。


3/3

次の記事を読み込んでいます。