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2020.07.06

BMW「X5」の初代が幕を開けた、21世紀型SUVの価値

「人気SUVの初代の魅惑」とは……

BMW:初代「X5」

20世紀が終わりを迎えようとしていた当時は、トラック由来のオフロードカーをベースとしたSUVが人気を博していた頃。
しかしレクサス「RX」、そしてBMWの5シリーズをベースにした「X5」の登場で、SUVは新章の幕が開いたと言っていいだろう。
初代「X5」
2000年に登場した初代「X5」。デビュー時は後輪駆動寄りのフルタイム4WDシステムを搭載。2003年10月から電子制御式の4WD「x-Drive」へ進化した。都会的な見た目ながら、雪の山道や海辺の砂地、キャンプ地などの不整地もラクラク走れる。
登場順に整理すると、「ほとんどの人たちは本当に悪路を好んで走りたいからSUVを選ぶのではなく、このデザインが欲しいんだ!」と気づいたのは、1997年登場のレクサス「RX」(1997年。日本名トヨタ「ハリアー」)が最初であり、2000年デビューのBMW「X5」が二番手だった
その頃のSUVが採用していたラダーフレーム構造とは、いわば梯子状の強固なフレームにボディを載せる構造のこと。ボディが凹んでも、土台であるフレームにダメージがなければそのまま走ることができるし、フレームは強靱なのでそう簡単に、走行不能に陥るほどの損傷を負うこともない。
何もない砂漠や山奥で車が動かなくなれば命に関わる。だから今でもトヨタ「ランドクルーザー」やスズキ「ジムニー」などはラダーフレーム構造を採用している。また当時はBMWのライバル、メルセデス・ベンツのMクラスでさえもラダーフレーム構造を採用していた。
バックドアは上下分割式。下のドアは耐荷重200kgなので、ベンチ代わりにもなる。
一方で、乗用車のほとんどが採用するモノコック構造(モノコックとは「ひとつの…」という意味)とは、簡単に言えば鉄板で作った立方体(箱)構造。路面からの衝撃をボディ全体で吸収できるため、乗員に揺れが伝わりにくくなる。一方で岩場のような凹凸の激しい場所でかかりがちな強い衝撃に対する許容量は、ラダーフレームには劣る。
つまり、当時は多くのSUVがオンロードの乗り心地より、オフロードの悪路走破性を重視していたのだ。そこに先述のような一石を投じたのがこの「X5」であった。
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「みんな、街でSUVに乗りたいんだ」という気付き

そもそもSUVの最大マーケットであるアメリカには広大な砂漠も壮大な水辺もあるが、ほとんどの人は週末のスーパーマーケットへ繰り出す際に、トランクの小さいセダンより、荷物の積みやすいという理由でSUVを選んでいたのだ。
「大きな岩がゴロゴロと転がっていているような場所へ、誰も行ってないじゃん」とBMWは見抜いたわけだ。結局この「X5」と「ハリアー」の成功を機に、多くのSUVがよりオンロードでの走行性を重視したモノコック構造を採用するようになった。
この写真だけ見るとセダンだと思ってしまうような高級感のある室内。当初は5速ATのみだったが、2003年から6速ATモデルも追加された。
さらに「X5」は「今までのSUVとは違うんですよ」ということを明確にするため、SAV(スポーツ・アクティビティ・ビークル)と名乗った。要はほかのBMW社のセダンやクーペ同様、「駆け抜ける歓び」とプレミアム感を持ったスポーティな車だということだ。
乗れば当時の5シリーズセダンとの違いは、視線が高いことと、車内が広いことくらい。え、これSUVだよね? と思えるほど、それまでのSUVとは乗り心地やステアリングの操作感が違うものだった。
しかも2001年に4.6LのV8エンジンを載せた「4.6is」が追加された点は、高級セダン路線を進んだ「RX」とは異なる点だ。「sの文字は、高いスポーツ性能を象徴」と資料に書かれた通り、最高出力347ps/最大トルク480Nmを発揮、0-100km/hは6.5秒と(当時としては)スポーツカー並みだ。結局、2代目にはハイパフォーマンスモデルである「M3」や「M5」と並ぶMモデル「X5 M」もついにラインナップし、現行型まで続いていく。
スポーツグレードの4.6isは2004年には4.8Lの4.8isへ進化。最高出力360ps/最大トルク500Nmを発揮、0-100km/hは6.1秒に。
「X5」の活躍を追うように、2002年にはポルシェが初のSUV「カイエン」を市場に投入。以降ジャガーやランボルギーニ、アストンマーティンなどから“サーキットも走れるSUV”が次々と登場してきた。
“岩場よりアスファルトでの快適性を”、そして“岩場よりサーキットでの走りを”という新たなSUVの価値観の礎を築いたのが初代「X5」なのだ。
「人気SUVの初代の魅惑」とは……
今はまさにSUV興隆の時。戦後、軍用車をベースに開発した車をルーツに持つSUVは多種多様な進化を遂げ、今や世界中で愛されている。そして、どのSUVにも当然、初代がある。そこには当代が持たない不動の魅力があり、根強いファンがいる。彼らを夢中にさせる“人気SUVの初代の魅惑”を探ろう。上に戻る
籠島康弘=文

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