いわばスポーツリムジンという価値観
当時も今も、全長5m前後の大型セダンともなると、オーナーは後ろに座って運転手がステアリングを握るショーファードリブンが当たり前だったが、7シリーズは初代(E23)からして、オーナー自らが運転を楽しむ車として設計されている。
それは3シリーズや5シリーズと同様に、インパネがドライバーを囲むように傾斜がついていることからも表現されている。
ホイールベースを140mm伸ばした「750iL」や、さらに400mm近く伸ばした「L7」なるリムジンも用意されていた。ただしストレッチリムジンはメーカー以外が作るのが一般的だった当時、「750iL」はもちろん「L7」もBMW自ら手掛けたことからわかるように、スポーツセダンならぬスポーツリムジンだった。
ドライブを楽しむためのセダンなのだから、当然初代からMTモデルも存在。『トランスポーター』でもフランクはMTのシフトを巧みに駆使してパトカーや敵を煙に巻いていた。
残念ながら日本の正規輸入車はATのみだったが、5速ATといえど、1996年以降はシフト操作でギアをアップダウンできるステップトロニックが採用されている。
メルセデス・ベンツやアウディに限らず、現行のBMW7シリーズでさえも、濃いめな厚顔・圧顔が多くなった昨今。「E38」のような薄い塩顔なフラッグシップセダンをフランクのようにキズひとつ、泥汚れひとつ付けずにスマートに乗れれば、それはジェイソン・ステイサムでなくてもクールに違いない。
「中古以上・旧車未満な車図鑑」とは……“今”を手軽に楽しむのが中古。“昔”を慈しむのが旧車だとしたら、これらの車はちょうどその間。好景気に沸き、グローバル化もまだ先の1980〜’90年代、自動車メーカーは今よりもそれぞれの信念に邁進していた。その頃に作られた車は、今でも立派に使えて、しかも慈しみを覚える名車が数多くあるのだ。
上に戻る 籠島康弘=文
※中古車平均価格は編集部調べ。