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2020.01.31

シトロエンの歴史 万人ウケしない車をあえて作り続ける前衛メーカー

車のトリセツ●走行に関するトリセツはダッシュボードの中にあるけれど、各メーカーの車の魅力を紐解くトリセツはなかなか見つからない。だから始める、オートマティックで好きになったあの車を深掘り、好きな理由を探るマニュアル的連載。
1919年、ヨーロッパ初の大量生産車「タイプA」の製造から始まったシトロエン。創業者のアンドレ・シトロエンから現代まで受け継ぐシトロエンの作る車は、ときに独創的であり、ときに革新的である。
まるで自動車業界の前衛アーティストのように、さまざまな手段で僕たちを楽しませてくれるシトロエンの車作りを紐解いていこう。
 

シトロエンを世に広めた「7CV(トラクシオン・アバン)」

最初に同社の知名度を高めたのは、 1934年に登場した「7CV(トラクシオン・アバン)」だ。
シトロエン「7CV」
第二次世界大戦後の1955年まで生産された「7CV」。
革新的な技術がふんだんに取り入れられていた7CVは、多くのシトロエンファンを獲得し、7CVから派生したシリーズはいつしか「トラクシオン・アバン(前輪駆動)」という愛称で親しまれるようになった。
フロントにエンジンを置き、後輪を駆動させるFRが当たり前だった当時、7CVは前輪を駆動させるFF方式を採用。また今で多くの車で採用されている、当時としては画期的であったモノコック構造(フレームがなくパネルのみで構成される構造)も取り入れていれるなど、かなり前衛的な車だったのだ。
 

フランスの“農民車”。40年以上生産された「2CV」

ところが同社は7CVを発表した1934年に経営破綻し、タイヤメーカーのミシュランが経営権を獲得。その後、第二次世界大戦が勃発するなど紆余曲折を経て、シトロエンが掲げた“フランスの農民のための車”構想(当時のフランスの地方農民はまだ、手押し車で荷物の運搬などをしていた)は、1948年にこの「2CV」で結実した。
シトロエン「2CV」
ヒットしたことでバンやクーペ、4WD車、多目的車など派生車種も生まれた「2CV」。
悪路を走ってもカゴいっぱいの卵が割れないように、という開発方針により、ローコストながら独自のアイデアで優れた乗り心地を実現。フランス工場では1988年まで、ポルトガル工場では1990年まで生産されるほどのロングセラーとなった。
 

シトロエンの代名詞“魔法の絨毯”な乗り心地の「DS」

もう一台、シトロエンを語るうえで外せないのが「DS」だ。1955年にデビューした際、未来からやってきたようなフォルムと、のちに「魔法の絨毯」と形容されるような独特の乗り心地が世界中の人々の心を捉えた。
1958年にフランス大統領になったド・ゴールは、「DS」を公用車として採用していた。
“魔法の絨毯”を生み出したのは、独創的な技術「ハイドロニューマチック・サスペンション」だ。ほかの車にあるスプリングやショックアブソーバーは無く、代わりにオイルとガスをゴムの膜で分けたスフィアと呼ばれる球体を備えていた。
その後もハイドロニューマチック・サスペンションを進化させたモデルを続々と開発し、その独特の乗り心地は、シトロエンらしさを表す代名詞となっていく。


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