ラグジュアリーブランドのアイコンは特別だ。長い歴史に裏打ちされた誇りや矜持が覗き、普遍的な愉悦をもたらす唯一無二の存在。そこに隠されたストーリーを紐解く。今回はメゾン マルジェラの“4本の白いステッチ”について。
2014年10月から、クリエイティブ・ディクレターにジョン・ガリアーノが就任。以降、新たな概念を取り込みながらメゾン マルジェラは進化を遂げてきた。とはいえ、ブランドの本質は創業時から変わらない。
アルチザンの技と伝統的なワードローブを尊重し、既存のルールにとらわれることなく、解体と再構築をもとに生み出すクリエイション。その先に生み出された服やアクセサリーを見れば誰もがそれを実感するだろう。
そして、白い糸で縫い付けられた匿名性を示す4本のステッチが、その哲学を端的に示している。
匿名的で個性的。シンプルなニットが持つ力
このシンプルに仮留めしただけのタグは当初、あとから取り外すことを視野に入れて付けられた。それは、すべての創造の中心はプロダクトにあり、デザイナーの名前やブランドが主役ではないことのメッセージでもある。
しかし、そんな4本のステッチは今、メゾンのクリエイティブや哲学に賛同する姿勢の現れとして、着る人に受け入れられている。4本のステッチがあることで得られる喜び、ファッションの楽しみを、ファンは享受しているのだ。
「ステレオタイプ」という言葉に込めたウィット
メゾン マルジェラは2017SSシーズンから“型にはまった”“紋切り型”というような意味の「ステレオタイプ」という単語を用いたカプセルコレクションをスタート。一般的にスタンダードとされるワードローブをメゾンの視点で再定義したコレクションだ。
とはいえ、どれも“型にはまって”いるわけはなく、そんなメゾンの手法に我々は再び魅せられる。胸に堂々と「STEREOTYPE」と記したクルーネックのTシャツ、色で遊んだスタンダードなデイパック。前面にはあの4本のステッチが。
こういうウィットに富んだクリエイションこそメゾン マルジェラの真骨頂。そのセンスを共有する証しが、4本の白いステッチなのだ。
【問い合わせ】メゾン マルジェラ トウキョウ03-5725-2414高橋絵里奈=写真 松平浩市=スタイリング 菊地 亮=文