>連載「37.5歳の人生スナップ」を読む >前編を読むソフトバンクでロボット開発に携わるようになる5年前、フォーミュラワン(F1)から離れ、今度は製品企画側に立つことになった林 要さん(45歳)。前部署とは異なり日本語が通用するにも関わらず、その現場は林さんにとってF1以上に過酷な場だった。
「これまで職人側だった自分が突然プランニング側に立っても、人は動かない。経験不足に加えて、自分自身の知識の無さもあり、いい年なのにサッパリ仕事ができず、辛かったですね」。
それから5年。右も左もわからない状況で自身のオリジナリティが出せない日々を乗り越え、プランニングの仕事にも慣れてきた。そうして平穏を手に入れると、なぜか迷いを自覚し始めるのだった。
「それこそちょうど37.5歳になるタイミングですね(※)。この年齢って人生の見通しがたつころなんだと思います。このまま10年20年経ったら自分に何が起こるか想像できるようになる。すると、このために生きてきたのかな? とか……迷いだす年齢でもあるのでしょうね」。
※37.5歳=本連載「37.5歳の人生スナップ」にちなんでいる。 孫正義に出会って見えた、組織人としての限界
迷い始めた時期に林さんの目に止まったのは、孫正義による後継者育成プログラム『ソフトバンクアカデミア』だ。実は林さん、ソフトバンクとは深い縁を感じていた。学部卒時代に就職試験を受け、落ちた過去があるのだ。
「学生時代から孫さんの考え方を尊敬していたし、そういえば俺を新卒採用で落としたなと思い出し(笑)、初代の社外生として応募しました」。
アカデミアは国籍、学歴、職歴不問とされているが、限られた定員の人選は特殊で、外部生に普通の会社員はとても少なかったという。その出会いは、いちサラリーマンだった林さんの考えを大きく変えるものだった。
「組織人としてそれなりに尖った経歴を持っていると自負していた自分が、あの場では超、普通の人だった。同世代で僕はそれなりに変わった実績を積んでいると思っていたけど、いつの間にかこんなにビハインドしていたんだと気づかされたんです」。
起業家や個人事業主などこれまで出会うことのなかったタイプの人たちの“生命力”に圧倒され、このままではいけないと焦りを感じたことで、ソフトバンクへの転職を決意したという。入社の際は、憧れの孫正義に近づけるのではという思いも少なからずあった。
「でも実際に孫さんを目の当たりにすると、孫さんがリスクをとるたびに、人間的に成長していくのが見えるんですよ。自分と孫さんのギャップがどんどん広がっていくのを目の当たりにさせられるだけなんです。『Pepper(ペッパー)』プロジェクトを一緒にやらせていただいたときに距離感の広がりを肌で感じて、そもそも孫さんの傘の下で仕事している自分が同じリスクなんて取れるはずがない、だから自分は成長が遅いんだ、と痛感しました」。
近づけば近づくほど、さらに遠くなっていく孫正義という存在。世界初の感情認識パーソナルロボット「ペッパー」のプロジェクトメンバーとして抜擢された林さんだが、その距離は一向に縮まりそうになかった。
ゼロから新たなモノを生み出すというモノ作りの厳しさや学びを得たソフトバンクでの3年間。見上げ続けた孫正義の背中はあまりにも遠かった。いくら追っても追いつけないなら、まずは自分もリスクをとってみよう。それが起業のキッカケだった。
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