実に170年にわたり腕時計の技術革新を続けてきたスイスのウォッチブランド、オメガ。今このブランドを率いているのは、時計職人の祖父を持ち、現在オメガが本社を構えるビエンヌ近辺で生まれ育った、生粋のスイス人である。
オメガとは?
1848年、スイスのラ・ショー・ド・フォンにて、当時23歳だった時計師ルイ・ブランが開いた工房がブランドのルーツ。1948年、防水性能を備えた「シーマスター」が登場。’57年に発表されたクロノグラフ「スピードマスター」はNASAの公式腕時計に採用され、’69年、月面に降り立った初の腕時計として“ムーンウォッチ”の称号を得る。現在は世界156カ国に直営店舗を展開。スイスが誇る世界的なウォッチブランドとして知られている。
「シーマスターは“オールラウンダー”だと思っている」
オメガの代名詞といえるコレクション「シーマスター」について、社長兼CEOのレイナルド・アッシェリマン氏はこう語ってくれた。
「シーマスターという時計はずばり、“オールラウンダー”だと思っています。海に潜るときも、オフィスにいるときも身に着けることができる腕時計。そして1948年の登場以来、多種多様なデザインを生み出してきたシーマスターのコレクションを振り返れば、“実験的”な腕時計と捉えることもできます。時代ごとの新しい素材やテクノロジーを、この時計に反映させてきたというわけです」。
“実験的”な腕時計であるシーマスターの歴史とコンセプトは、そのままブランドの哲学と重なってくる。
「オメガの時計作りの哲学とは“イノベーションを続ける”ということ。長い歴史のなかで、我々はあらゆる技術革新を行ってきました。しかし現状に満足してしまえば、成長はそこで止まってしまう。だから常に進化し続けなければなりません。いちメーカーとしてはもちろん、“マスター クロノメーター認定”(※1)の導入など、時計製造の未来を見据えた挑戦を続けています」。
技術革新による精度の追求こそ時計の本分であり、それに挑戦し続けるオメガは間違いなく“本物”のウォッチブランド。しかしながら、その腕時計には優れた機能以上に我々を惹きつけてやまない何かがある。目にしたときに直感で「格好いい」と思う何かだ。
「優れたタイムピースは常に腕元を飾り、長い時間を共有します。そして現在では、単に時を刻む以上の役割を担っている。つまり腕時計とは究極のアクセサリーであり、ファッションとは切っても切れない関係にあるのです」。
その言葉のとおり、最新コレクション「シーマスター ダイバー300M マスター クロノメーター」は、デザインに関してもより“美”を意識した仕上がりに。ベゼル、インデックス形状、ダイヤルの波模様など、あらゆるディテールがアップデートされている。
「オメガには歴史と素晴らしいウォッチコレクションがあります。その伝統を受け継ぎつつ、時代に応じて変化させることも大事だと考えています。腕時計のデザインはもちろん、マーケティングやセールスの分野においても新しいアイデアは必要不可欠。ソーシャルメディアの活用や、Eコマースの充実などはその一例です。オメガのストーリーを伝えるために、最新のファッションや著名人とのコラボレーションにも積極的に取り組んでいます」。
アッシェリマン氏は、オメガというブランドを含めて「スイス製の時計こそ最高級である」というイメージの維持に心を砕いている。それは、彼がスイス人であることと浅からぬ関係があると思う。
「オメガのすべての時計のダイヤルに記された“SWISS MADE”の文字に、我々は誇りと責任を持っています。世界中の人々が“スイス製こそ最高級”と思うかどうかは、スイスの時計製造業界が、最高のスタンダードを作り続けられるかどうかにかかっている。オメガの現在の取り組みは“進化”と“時代性”という2つのキーワードで表すことができます。このキーワードは、スイスの時計作り全体においても大切なことなのです」。
※1 マスター クロノメーター認定
2015年、オメガからの働きかけでスイス連邦計量・認定局が制定した、公的検査制度。1万5000ガウスの磁気に対する耐性など、8つの厳格なテストが設けられている。
加瀬友重=編集・文