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世界一の店が出来上がる

独立はかつての想定より10年遅れだけれど、上回っていることもたくさんある。
「最低でも年商1億のお店をやるって決めてたんですが、今はそれをはるかに超えています。それと、世界一の店になるっていう目標を持っていたんですが、僕のなかでは、もうだいぶ昔に世界一になれました。……まあ“キミ世界一じゃないでしょ?”って言う人もいると思うんですけど、僕の物差しでは断然世界一なんです。誰かにクレームつけられても“いやいや、キミのそのルールじゃないんで!”って言い返せますよ(笑)」。
さて杉窪さんのお店、「パン屋さん」と呼び続けてきたのだが、正確には「食のセレクトショップ」。
杉窪さんのパンは国産小麦を使って、その味わいを最大限に引き出したもの。強くて個性的な小麦の味に合う野菜や肉を探したところ、さまざまな素晴らしい生産者に出会った。結果、「365日」と「15℃」では、おいしいだけでなく安心・安全な食材や加工食品も販売するようになっている。で、こうしたお店のあり方自体が、杉窪さんの次なる目標を表しているという。
それは……。
「世界平和です」。
……ええと、おいしいパンや加工食品を作って売ると、それがどう世界平和に繋がるのでしょう?

「まずは安全安心でおいしい食べ物が世の中に増えていくこと。食べ物は心と体を作っていくものだと思っています。そのための食材を作っていくには、まず僕たちがおいしいパンやケーキを作るのに使うこと。今、うちと契約している農家さんは全国で40軒ほどあるんですが、僕らみたいなパン屋が自社で加工して使うことで量を消費することができるんです。僕らが安定的に使うことで、良心的な生産者のみなさんは、安心して作付けができることになります」。
「一方で、僕の店にはおかげさまで弟子がたくさんいる。彼らには加工技術を教えています。どうすればおいしいパンが作れるか、おいしいパンに使う食品加工技術はどういうものか。いずれ彼らが独立してそれぞれ地域でうちみたいな店をやると、そこでも安全安心な食材は使われることになるし、技術もまたそこから広がっていく……」。
そうなると生産者の方でも同じことが起こるかもしれない。杉窪さんのお弟子さんたちと同様に、農家や酪農家、牧畜業でも、いい食材を作る思想と技術は伝授され、全国に広がっていくことが想像できる。食べる側も、今まで以上に簡単に「真においしいもの」「安全安心なもの」に触れることができるようになる。今よりも多くの食べものが、そうした良心的なものに変わっていく。
「いいかげんな仕事って子供に見せられませんよね? ちゃんとしたものをつくる。パン屋でも農業でもそうなんですけど、自分が胸張ってやってる仕事を子供に見せることができ、子供はそれを小さいころから当たり前のものとして見聞きして育っていく。世界中がそういうふうになれば、間違いなく平和ですよね」。
えらく壮大だ。でもやってることは、飲食業として地に足のついた、ごくごく当たり前のこと。その延長線上に世界平和はあるのだ。きちんとおいしいものをつくること。そしておいしいものをつくることのできる人を育てる、ということ。
「今年、直営店が4軒になり、プロデュースしている店舗も4ブランドあります。僕の考えに共鳴してくれているスタッフは多いと思います。ただ実際、僕の弟子はまだ誰も独立していません。僕らの仕事の本質は、パンをつくることとかお菓子をつくることとか料理をつくること……ではないんです。もちろんおいしいものを作る技術や知識は、手段としては必要です。でもそれを習得できたからといって、独立できるわけではないんですよ」。


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