大いなる過去に触れることは、現在を知ることであり、未来を見ることである。それはすべてのジャンルに通じる。だからこそ史学があり、温故知新という言葉もある。
時計でもこうしたジャンルは、人気が高く、復刻モデルも実に多い。今回紹介するのは、そんな“古きをたずねて、新しきを知る”時計だ。連綿と続く系譜に思いを馳せ、進むべき道を意識する。そんな男の名刺代わりとなるのだ。
TISSOT
ティソ/ティソ ヘリテージ バナナ
ダンディズムが薫るエレガントな角形1916年に誕生し、わずか1年ほどしか製造されていないという歴史を持つ幻の時計が、’91年に75年の眠りから覚めた。
手首に沿うような優雅なカーブを描くことから“バナナ・ウォッチ”の呼称が付けられ、文字盤の中央から放射状に伸びたアラビアインデックスがアール・ヌーヴォー様式を彷彿させる。復活以降、ブランドのアイコンとしてさまざまなバリエーションが登場しているが、この日本限定モデルは、エナメル調に仕上げたホワイト文字盤を採用する。
TAG HEUER
タグ・ホイヤー/タグ・ホイヤー オウタヴィア
陸と空を制した名作クロノグラフ
2017年にリバイバルされたオウタヴィアは、1933年にダッシュボード用計器として開発され、’62年に腕時計として誕生。ネーミングは、Auto mobile(自動車)とAviation(航空機)からなる造語で、陸と空を制覇した当時のクロノグラフ技術をアピールしたものだ。
復刻にあたっては、インターネットの閲覧者5万人以上の投票により、16のヴィンテージモデルの中から選ばれ、’60〜’70年に活躍したF1ドライバーのヨッヘン・リントが着用した’66年の「リント」をモチーフにする。自社キャリバーのホイヤー02を搭載。
CARTIER
カルティエ/クレ ドゥ カルティエ
鍵巻き式の操作感までも再現した第4のフォルム
優美な曲線を描くオーバルケースはこれまでカルティエが輩出したサントスのスクエア、タンクのレクタンギュラー、バロンブルーのラウンドに次ぐ第4のフォルムになり、レトロテイストの中にもメゾンらしい創造性と美学が漂う。
優雅なラインに添うように独自のリュウズを備え、クレ(=フランス語で鍵の意)のネーミングも、このスタイルに由来し、かつてゼンマイの巻き上げには専用の鍵を使用したことから名付けられた。優れた操作性とまるで鍵を差し込んで巻くような感覚までも再現する。
BLANCPAIN
ブランパン/フィフティ ファゾムス バチスカーフ デイ・デイト 70s
ファッションにも映える’70sスタイルを再現
ブランパンの顔であるフィフティ ファゾムスは現代のダイバーズ機能の基礎を作り上げ、1956年に加わったバチスカーフはケース径と厚みを抑えたスタイルでタウンユースにも対応した。
’70年代になると、よりスタイリッシュな装いとなり、本作はその当時のデザインを復刻。グレーグラデーション文字盤に、バーとアラビア数字のインデックスを並列する。
RADO
ラドー/ラドー トラディション 1965 M オート
モダニティ漂うハイビジョンTVスクリーン
キャッチーな横長ケースは、1965年のアーカイブをモチーフにする。マンハッタンのスカイラインから着想したスタイルを受け継ぎつつ、音叉型の時針と分針は視認性にも優れる。
6時位置に配されたカレンダー小窓もインデックスと調和しており、全体のデザインを崩さない。文字盤はハイビジョンテレビのモニターを思わせ、リバイバルながらもモダンな雰囲気を醸し出す。限定モデルで生産本数はオリジナルの誕生年に由来する。
PIAGET
ピアジェ/エクストリームリー・ピアジェ・アーティー
アンディ・ウォーホルを魅了した名作が復活ポップアートの巨匠、アンディ・ウォーホルが1970年代に愛用していたことでも知られる、クッションケースを再現。ケースはポリッシュとサテン仕上げを交互に配し、文字盤には鮮やかなラピスラズリを採用することで、アーティスティックな美しさを表現している。自社製自動巻きムーブメント「534P」を内蔵するなど、マニュファクチュールの矜持も発揮。
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星 武志(エストレジャス)=写真 石川英治(Table Rock. Studio)=スタイリング 柴田 充=文