もっともこんな風に「人生100年時代」が人口に膾炙するようになると、消費性向は確実に低下するだろう。「長生きリスク」を意識すると、どうしても生活防衛的になってしまう。
そうでなくとも2012年以降、この国では全世帯数の半数以上の世帯主が60歳を超えている。前々回の拙稿、「
雇用者急増でもGDPが減る日本経済の『謎』」でも取り上げた通り 、収入がどんどん貯蓄に回っているのが現状ではないだろうか。
ところで高齢夫婦世帯にとって、「老後資金として必要な貯蓄額は2200万円」と言われている。国民皆保険制度があるありがたさ、がん治療や介護の可能性を考えてもそれくらいあれば充分なんだそうだ。
三井住友信託銀行さんの試算によれば、現在のリタイア層である60~70代の貯蓄残高は、何とかこの水準をクリアしているとのこと。
人生100年時代におカネの心配をすべきは「若い世代」
むしろそれよりも若い世代が問題である。つまり今の30代や40代が、年金支給開始年齢までに2200万円以上の金融資産を蓄えようとすると、これが非常に困難なのである。それというのも、賃金の伸び悩みや税・社会保険料の増加によって、今は昔に比べて可処分所得が減っている。
それに加えて、資産運用に期待できないという問題がある。現在の60代以上は、過去に株高や高金利、不動産バブルといった時代を体験している。
若い人には信じられないだろうが、昔は郵便局の定額預金が8%で回った時代があったのだ。10年物定期に預けると、文字通り100万円が200万円になったものである。
こうしてみると、「人生100年時代」におカネの心配をすべきはむしろ若い世代であって、定年世代はむしろせっせとカネを使うべきなのではないだろうか。定年世代が自問すべきは、「会社の肩書が外れた後に、何を目的に生きて行くのか」であろう。
そもそもおカネというものは手段であって目的ではない。予想以上に長く残された余生の中で、自分は何をしたいのか。そっちを先に考えるべきではないのか。
先日、一足お先にリタイアした同世代人から話を聞く機会があった。「ああ、いい話だな」と思ったのは、「自由の身になってからファミリー・ヒストリーを作ってみた」のだそうだ。
NHKの人気番組『ファミリー・ヒストリー』は有名人しか相手にしてくれないが、自分自身の手で家系図を作ってみると、何か今後の人生へのヒントが掴めるかもしれない。
同氏は現在、フリーランスの身で忙しく日々を過ごしている。某ファンドのアドバイザーを務めたり、実家周辺で不動産業を営んだり、過去の経験を活かしてレポート作成の下請けをしたり、なかなかの充実ぶりである。さて、自分は人生の終盤戦をどんなふうに過ごそうか。とりあえず「何をして遊ぶか」は決まっているのだが。
かんべえ(吉崎 達彦) : 双日総合研究所チーフエコノミスト
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