――登山・アウトドア用品に限らず、海外メーカーの商品を本国よりも相当に高い値段で売っている国内代理店は少なくありません。企業の生い立ちの違いもあると思います。私は米パタゴニアの創業者、イヴォン・シュイナードさんと若い頃に友人となり、彼の会社(シュイナード・イクイップメント=パタゴニアやブラックダイヤモンドの前身企業)のクライミング用品を日本で売ってくれと頼まれて、今の商売を始めました。それがこの会社の出発点です。
当時は日本でクライミングをやっている人は少なく、顔見知りの仲間も多いのです。登山仲間に法外な値段で売ることはできません。取れるマージンはおのずと限られる。出発点がそうでしたから、代理店商売で大儲けできるなんて考えたこともありません。
あと、会社の儲けというのはフェアであるべき。うちが取り扱っているのはどれも世界的に有名なブランドなので、もっとマージンを取って高く値付けしても売れる自信はあります。しかし、モノを作っているわけでもない代理店が大きな利益を得るのは、道理としておかしい。輸入・配送や宣伝、修理対応など付帯業務に必要なコストが賄えて、一定の利益が残ればそれで十分だと思っています。
――ところで、パタゴニア創業者のシュイナードさんとは山で知り合ったんですか。40年近く前、彼が書いた『クライミングアイス』(原題)という本の翻訳を出版社の方に頼まれたのがきっかけでした。来日したときに本人にあいさつしたら、「いつでも遊びに来てくれ。一緒に登ろう」と。その社交辞令を真に受けて、ワイオミング州の自宅まで押しかけたんです。1カ月間も泊めてくれて連日、一緒に山やクライミングに出掛けました。それ以来の友人です。今も会社の経営にもかかわりながら、世界各地で渓流釣りを楽しんでいるようです。
儲けが減るのは覚悟のうえ
――上場会社ではないので聞きづらいのですが、内外価格差をゼロにしたら会社の儲けが相当に減るのでは? メーカーからの仕入れ値が安くなったわけではありませんから、当然減ります。今回の価格改定では小売店側にも協力してもらいましたが、かなり値下げした商品もあるので、収益的には厳しくなります。
――社内で反対意見はなかったのですか。なかったですね。うちは社員が約40人いますが、そのほとんどがクライミング、登山、山岳スキーなどを趣味にしている連中。だから、考え方は社員たちも同じです。ただ、会社の利益が減るのははっきりしているので、「経営的に大丈夫なんでしょうか」といった質問はありました。
――坂下さんは何と?「何とか黒字は維持できると思う。でも正直、やってみないとよくわからない」と(笑)。 この会社を立ち上げてから今まで、ずっと黒字でやってこられました。無駄なことにおカネを使っていませんから、無借金ですし、それなりの蓄えはある。社員たちには、「この会社はそう簡単に潰れない。心配するな」と話しています。
まぁ、確かに冒険ではありますね。登山にたとえるなら、誰も登ったことがない絶壁を登るようなもの。前例のないことをやる以上、当然大きなリスクが伴います。しかし、リスクを取るのが嫌なら、最初からやらなきゃいいだけの話。前例がなくてもやると決めたわけですから、強い意志を持って、やり遂げるしかないのです。
渡辺 清治: 東洋経済 記者
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