「大人のCOMIC TRIP」を最初から読むいくつになっても、見知らぬものに触れる体験は刺激的だ。未知の世界と対峙したとき、胸に芽生えてくるのは少年時代に覚えたようなワクワク感。けれど、大人になったいま、そんな感情に出合う機会はめっきり少なくなってはいないだろうか。
だからこそ、人は「旅」に出る。非日常の世界に身を投じることで、刺激を受け、さらにはさまざまなことを学ぶのだ。ただし、忙しい大人にとって、旅は日々の生活の対極にあるもの。「旅をしてみたい」とは思いつつ、重い腰をなかなか上げることは難しいかもしれない。
そこで今回提案したいのが、『冒険エレキテ島』(鶴田謙二/講談社)。本作はイラストレーターとしても活躍する作者による、海洋ロマンだ。
主人公は〈みくら〉と呼ばれる女性。小型の飛行機を乗り回し、普段は宅配業に勤しんでいる。そんなみくらは、ある日、祖父を亡くしてしまう。その遺品を整理していたときに見つかるのが、謎の島・エレキテ島の資料と、そこに住む〈アメリアさん〉宛の小包。これはいったいなんなのか。エレキテ島とは? 不思議に思ったみくらは、愛機に乗り、エレキテ島を探すことを決意するのだが――。
本作は、みくらが少ない情報を頼りにエレキテ島へと近づいていく様子が丁寧な筆致で描かれている。ご都合主義の状況説明などもなく、そのリアルな描写は、読者をあっという間に作品の世界へと没入させるだろう。
旅にはさまざまな準備が必要であり、すぐには実現させるのが難しいという側面がある。しかし、みくらは気になることがあると、瞬時に走り出してしまう性格の持ち主だ。そんな彼女の姿を見ていると、なんだか胸がすくような思いがする。自分にはできないことをしている。彼女は、忙しい現代人の代わりに、旅という舞台をロールプレイしてくれるキャラクターなのだ。
第2巻でみくらはついにエレキテ島を発見し、上陸することに成功するのだが、物語の謎は解明されない。むしろ、その謎はますます深まるばかりだ。しかし、これもまた旅の醍醐味。そう簡単に謎が明かされないのも、ロマンというものだろう。
旅することのおもしろさを、あらためて教えてくれる本作。なかなか旅立つことが許されない多忙な方には、読書という名の旅を通して、あのときのワクワク感を取り戻してもらいたい。
五十嵐 大=文
’83年生まれの編集者・ライター。エンタメ系媒体でインタビューを中心に活動。『このマンガがすごい!2018』では選者も担当。