自分への悪口や噂話なら右から左へ受け流せばいいけど…
会社組織の中には、性善説だけで付き合うのは難しい部下が必ずいます。特に、表裏のある人・陰で悪口や噂話をする人との付き合いは神経を使いますよね。自分個人への“口撃”ならば、大人の対応で軽く受け流してしまえばいいのですが、会社の事業方針やチームの連携が乱れるようなものであれば、上司として見過ごすわけにはいけません。
「そんな部下でもイケてる上司でいられますか?」を最初から読むそもそも人はなぜ悪口や噂話をするのでしょうか。人間には「自己愛」という名の防衛本能があります。これは「人間は自分と誰かを比較せざるを得ない社会的な動物」であり、そこから生まれる「劣等感」という弱点を克服するために、必要不可欠なものです。その防衛本能が劣等感の原因である相手方に向けられると、悪口や噂話といった“口撃”になってしまうのです。
悪口や噂話の“口撃”対象は、人間が劣等感を感じる数だけたくさんあるわけですが、ここでは
(1)取引先
(2)会社の経営方針(もしくは経営陣・上司)
(3)同じチーム内の人
といった3つのパターンを取り上げたいと思います。
(1)の典型は、「あの取引先の担当者、ぜんぜんわかってない」「あの担当者が異動したのは左遷らしいよ」のような発言。
(2)の場合は、「経営が現場のことをぜんぜんわかってない」「会社が何をしたいのか見えない。説明不足だ」といった発言。
(3)は「なぜあの人が評価されるのかわからない」「上司が好きなタイプだから贔屓しているんじゃないか」などの発言です。
陰でうっぷんを晴らしているだけでとどまらず、それらの発言が上司である自分の耳に入ってきたとしたら。上司としての示しを付けるためにも、チームの士気を下げないためにも、あなたならこんな部下、どう対処しますか?
悪口や噂話を根本的になくすことはできない、が大前提
悪口や噂話を発する人にとっては、劣等感から自分を守るために相手を傷つける「専守防衛」に近い論理が働いています。なので、根本的に悪口や噂話はなくならない。それを理解した上で対処していく必要があります。「100%の防災は難しくとも、減災はできる」という考え方です。
私ならば、チーム全体には一般論的に「コンプライアンス意識を高める必要がある」ことを伝え、個人個人には相談ベースで「悪口・噂話の出所を探っている」ことを伝えていきます。空中戦(チーム全体)と地上戦(個人)の両方の作戦を同時に展開するのです。
例えば朝会や定例会で「最近のニュースでもありましたが、情報漏えいによる企業のコンプライアンス違反が増えています。情報漏えいは、インターネットやSNSを通じて起きるだけじゃなく、エレベーターや通勤電車、居酒屋での噂話も対象になります。特に取引先の経営情報や、自社の内部情報などはインサイダー取引にもつながる恐れがあります。皆さんもくれぐれも気を抜かないでください」といった内容で、釘を刺します。ただあくまで他社の事例を引用して、そうならないようにしましょう、と伝える方がよいと思います。
次に、おそらく噂話の出所だろうと思われる部下に対し「今日の会議で伝えたコンプライアンスの件、ウチの会社は大丈夫かな?」「取引先や自社の悪口を言う社員がいる、って気になる噂を聞いたんだけど」と伝えてみます。その部下が本当の出所かどうかの真実を突き詰める必要はありません。あくまで「上司が出所を知りたがっている」ことが伝わればよいのです。
頭のよい部下であれば「上司が気にしている」ことに気づけば、大っぴらな噂話や悪口を控えるでしょう。怖いのは噂話や悪口は、放っておくと面白く誇張されることと、共鳴する人が増えると拡大してしまうこと。少なくとも組織内で「監視の目が働いている」ことを示すことで、被害を最小限にすることができます。
それでも噂話が収まらない場合は、上司個人での対応ではなく、会社内のしかるべき組織に相談し会社全体として対処を考えた方がよいでしょう。放っておくと手がつけられなくなりますので。
次回は「新人の教育担当を拒否する部下」です。
取材・文/藤井大輔(『R25』元編集長)
次回を読む