仕事において、自己評価と他己評価、どちらが大切なのか
いきなりですが、オーシャンズ世代の方に質問です。
「自己評価と他己評価、仕事で大切なのは、どちらでしょう?」
この質問にすんなり、きっぱり答えられる人は少ないと思います。
「そりゃ自己評価は仕事へのモチベーションの源泉になるし、他己評価は仕事のクオリティを担保するためには絶対必要だし。うん、両方とも大事だよ」
そんな答えでも良いなら、共感できる人は多くなるんじゃないでしょうか。
では次の質問はどうでしょう。
「自己評価が高い部下と他己評価が高い部下、育成が難しいのはどちらでしょう?」
これは即答できますね。
自己評価が高い部下を持ったことがある人なら、あれほどやっかいで悩まされたことはない、と深いため息をついたかもしれません。それほど自己評価の高い部下の育成は難しい。
自己評価の高い部下の特徴は
・できるアピールをする
・「できます」「大丈夫です」が口癖
・人の話を聞かない
・注意しても本質的な理解がないので同じ失敗をする
・「あいつよりまし」的な言い訳をする
などが挙げられますが、何より困るのは「自己と周囲の評価にギャップがあることに気づいてない」ことです。
こんな部下は、取引先や他部署に迷惑をかけたときに、上司として一緒に謝罪に同行しても感謝の一言すらない。部下は「なんで?意味がわからない。自分はちゃんとやっているのに、悪いのは相手だ」と深層心理では思っているので、むしろ「なんでこの上司は、自分を守ってくれなかったんだろう。信用できない!」と逆に上司の評価が下がってしまうことすらありえるのです。
さて、あなたならこんな部下、どう対処しますか?
自己評価の高い部下の心理には「自己承認欲求」への飢餓感がある対処のやり方として「他己評価とのギャップがあることをしっかり認識させるよう厳しく指導する」という正攻法がありますが、これは場合によっては諸刃の剣になるかもしれません。なぜなら部下の自己評価が高い原因は、その部下の「自己承認欲求」が満たされていない可能性があるからです。本当の意味で他人から褒められた経験が少ない、とも言えます。
そんな部下に「お前は自己認識がなっていない」と指導すると、どうなるでしょうか。出社しなくなったり、新型ウツ病を発症したり、最悪の場合は……これ以上は書きません。
では、部下のいいところを見つけて「お前のそういうところは、いいね」と褒めて育てるのがよいのでしょうか。それだといつまで経っても空気の読めない、取引先や他部署から“使えないヤツ”のままになってしまう恐れがあります。
私だったら、対処は2つ。
①部下のこれまでの人生をじっくり聞く機会を作る。
②仕事に具体的な達成できそうなゴール(数値目標)を設けて、適宜アドバイスをする。
それぞれ説明していきます。
①は、上司と部下としての信頼関係を築くこと。心理学用語では「ラポール形成」と呼ばれる行為ですが、できるだけ部下の人生を受け入れてあげるのです。自分とは全く違う人生だったとしても「そんなんじゃダメだ」「俺だってこんなにすごかった」とか、絶対言ってはいけません。自慢話だとしても、ひたすら聞いてあげてください。
①で信頼関係が構築できれば、少なくともこの上司の言うことは聞いてみよう、という気になります。そのうえで②を実施するのです。努力すれば達成できそうなゴールを設け、それを上司と一緒にクリアしていく。自分が達成できたのは自分ひとりの力じゃないんだという経験を、小さなものでもいいので、たくさん積ませてあげるのです。
承認欲求とは、小さいと物足りなく、自分は認められていないんじゃないかと不安になり、逆に大きいとプレッシャーになり、自分の責任の重さに押しつぶされそうになる。厄介なものです。そのバランス感覚を部下に仕事を通して体感させることができる上司が、イケてる上司と言えるでしょう。
次回はレベル2「否定的な発言が多い部下」です。
取材・文/藤井大輔(『R25』元編集長)
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