新人と世代の近い若い部下に、教育担当を任せることのリスク
“部下の育成”はオーシャンズ世代のマネージャーにとって、非常に重要度の高い職務です。しかも最近は新人をできるだけ早期に育成して成果につなげてほしいと、経営層からの要望も強くなってきています。上司として直接指導できる人数は限られるので、自分は中間層や次期マネージャー候補の指導に回り、新人の教育までは手が回らないという人は多いのではないでしょうか。
「そんな部下でもイケてる上司でいられますか?」を最初から読むそんなときに、あなたが新人の教育を任せるとしたら、次のうちどのタイプの部下を選びますか?
(A)新人と世代の近い、2~3年目の個人業績の高い部下
(B)ベテランで社歴が長く、会社への忠誠心が高い部下
「新人の早期育成」が求められているならば、と(A)の部下を選んだあなた、このタイプはいくつか点で注意しなければなりません。
①「教育担当につけたことで個人業績が下がるおそれがある」
②「残業時間が長くなり、それに新人も付き合わされるおそれがある」
③「新人への接し方が威圧的になるか、もしくは慣れあいになるおそれがある」
④「短期的な成果を重要視するあまり、仕事の本来の価値まで教育できないおそれがある」
①②は、業績の高い部下に「教育担当」の業務を追加するわけですから、その部下のパフォーマンスに必ず影響が出ます。わかりやすいのは、業績の低下、労働時間の増加です。その両方が同時に発生することもあります。①②のリスクを回避するように求めると「業績維持のために新人の教育担当を外してください」と部下は言うでしょう。
③④は、同じ若い世代だからこそのリスクで、上下関係が学生時代の部活やサークルのようになってしまうことがあります。早期に成果を上げることはできるかもしれませんが、そもそも会社とは何か、仕事とは何かが伝わらないままに、業績アップのためのゲームに参加させられることになるので、新人は疲弊し離職する可能性が高くなることがあります。そのことを注意すると「私もそこまで教育されたことはないので、別の人に担当してもらってください」と言うでしょう。
さて、あなたならこんな部下、どのように対処しますか?
会社の意義や仕事の価値を、業績以外で語ることができるか
当たり前ですが、(A)の新人と世代の近い個人業績の高い部下に、多くを求め過ぎてはいけません。彼らもまだ成長の途中であり、その分、新人の教育担当の負荷が大きいのも事実です。自分の業績の高いことが、どのようなプロセスで達成されているのかを客観的に考察できるようになれば、パフォーマンスを維持しながら教育担当も両立できるようになりますが、そのためにはあなたが上司として適宜フォローをする必要があります。
また新人の教育に欠かせないのは「社会人としての心の成長を見守る姿勢」です。しかし心の成長は時間がかかりますし、新人によって成長するスピードもまちまちです。その役割は心理学用語で「メンター」といい、何かを教えたり指示したりする役割というよりは、助言や傾聴を通して本人の成長を促すこととされています。メンターは、同じ若い世代よりは(B)のベテラン社員が向いているでしょう。
私としては、新人の教育担当を(A)だけに任せるのではなく、メンターとしての(B)と2人で担当してもらうのが良いと考えます。上司としてのあなたは、(A)をフォローしつつ(B)から新人の心の状態をヒアリングし、新人に対しては「会社の意義、仕事の本質的価値」を直接語っていく。「誰のために、何のために仕事をしているのか」という問いかけを、新人と教育担当2名を交えて語る機会を作っても良いかもしれません。
つまりオーシャンズ世代のイケてる上司は、「会社の意義、仕事の本質的価値」について、ちゃんと語れなければダメなのです。部下が新人教育を拒否したときは、自分の上司としての働きかけを見直す機会としてはいかがでしょうか。
次回はレベル7「退職をちらつかせて仕事を拒否する部下」です。
取材・文/藤井大輔(『R25』元編集長)
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