Watchの群像劇 Vol.63
2021.10.16
WATCH

「IWC」のパイロットウォッチを巡る、合理主義な妻と拘泥する夫の物語

「腕時計と男の物語」とは……

「コーヒーが入ったわよ」。昼下がり、リビングから妻の声が聞こえる。

テーブルには大ぶりのマグカップと陶器のコーヒーカップが仲良く並んでいた。まずマグカップを手にしたのは妻、僕はもうひとつのカップを。いつもと変わらぬ休日の光景だ。

いずれは妻とシェアを。「IWC」のパイロットウォッチと、合理主義な妻と、拘泥な男の物語
[男性]腕時計59万4000円/IWC シャフハウゼン(IWC 0120-05-1868)、ブルゾン4万1800円/スコッチ アンド ソーダ [女性]カーディガン6万1600円/エーヴィーエヌ(ともにコロネット 03-5216-6518)

以前、訊ねたことがある。せっかくふたりでコーヒーカップを揃えたのだから使えばいいのにと。

「いいのよ、マグカップは手入れも簡単だし、冷たいミルクやホットワインだって飲めるでしょ。なんたって便利なんだもの」。

合理的に物事を図れる妻に対して、どちらかというと僕は何かと拘泥してしまうタイプだ。

だからといって夫婦仲が悪いわけではない。たとえば旅行に行くにしても、妻が綿密なトリッププランを仕上げ、僕が現地での想定外の出会いや発見に導く。結束は固く、むしろ互いを補完し、いい方向に向かっている、と少なくとも僕は思っている。世の中には夫婦茶碗というのがあるけれど、こんな夫婦カップがあってもいいだろう。

そんな妻が最近どうやら僕の「パイロット・ウォッチ・マーク XVIII ヘリテージ」を狙っているようだ。

戦後、IWCが英国空軍の飛行監視要員向けに開発した時計「マーク11」は、30年近く生産が続けられ、さらに1990年代半ばからシリーズとして継続した。その名機の系譜にあること、そしてダイヤルのデザインは、’30年代の名機、ドイツ・ユンカース社の 「Ju52」のコックピット計器に着想を得たことを妻にも話したことがある。

「うーん、細かいことはよくわからないけれど、今何時かひと目でわかるのはいいわね。それに見た目ほど重くはないし、このサイズなら私にも違和感なく着けられるかも」と目を輝かせていたのを覚えている。確かに、ブラウンのレザーストラップは、妻のグレーニットにも似合いそうだ。

ミリタリーという負のヘリテージから生まれたデザインではあるものの、研ぎ澄まされた武骨さには、道具本来の完成された存在感と、時代を超越した普遍性が漂う。その佇まいは、どんな蘊蓄よりも雄弁だ。

でも僕は知っている。妻がコーヒーカップを使わない本当の理由を。誤って縁を欠いてしまったからだ。それを言い出せない、不器用な合理主義もまったく彼女らしい。そんなふたりを、並んだふたつのカップが笑っている。

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オリジナルに原点回帰したパイロットウォッチの名作

チタニウムケース、40mm径、自動巻き。59万4000円/IWC シャフハウゼン(IWC 0120-05-1868)

IWC SCHAFFHAUSEN
IWC シャフハウゼン/パイロット・ウォッチ・マーク XVIII ヘリテージ

1948年に誕生した「マーク11」は、パイロットウォッチのベンチマークとして名高い。

“マーク”は英国空軍装備品の呼称を意味し、ダイヤル12時位置の三角形はその証しとして初代から現行にも貫かれている。’80年代に生産終了後、’90年代半ばに民生用の後継機「マーク12」が登場。以降熟成を重ねる。

このモデルは6と9の数字が復活したスタイルに、ケース径を前身の41mmから抑え、チタン素材の軽快な装着感はシェアウォッチにも。

 

「腕時計と男の物語」とは……
男には愛用の腕時計がある。最高の相棒として、その腕時計は男と同じ時間を刻んできた。楽しいときも、つらいときも、いかなるときも、だ。そんな男と腕時計が紡ぐ、とっておきの物語をここで。
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川田有二=写真 石川英治=スタイリング 谷口里奈=ヘアメイク 柴田 充=文

# IWC# Watchの群像劇# ミリタリーウォッチ# 腕時計
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