芸術品とも呼べる精緻な装飾を目にした瞬間、腕時計は、時を刻む道具という存在を超える。長い時間をかけて職人たちが身につけた技巧が、腕元の小さな道具に命を宿している証し。今ではそうした技術そのものの存続が、継承者不足から危ぶまれることさえあるという。
美しき装飾の施された時計を手にすることは、その技を未来につなぐことと同義になるはずだ。
伝統的な職人技を名機で次世代につなぐ
PATEK PHILIPPE
パテック フィリップ/ワールドタイム Ref.5230
国際的に実施されたタイムゾーンの都市名更新に際して、外装をリニューアルしたルイ・コティエ式のワールドタイムウォッチ。そのダイヤル中央の装飾に名門の技が冴えわたる。
籠の編み目をかたどったギョーシェ彫りは、パテック フィリップ・ミュージアムにも所蔵される歴史的な懐中時計から着想を得たもの。今日では消失しかけているこのような職人技を、自社で保持することで、次世代につなごうと試みるその姿勢に名門の矜恃が見られる。
工作機械に関しても、丁寧に手入れをすることで100年以上も管理維持。真の意味でサステイナブルといえるだろう。
受け継がれるエナメル技法を最高峰モデルで表現
BREGUET
ブレゲ/クラシック トゥールビヨン エクストラフラット オートマティック 5367
5時位置に堂々と鎮座するトゥールビヨン。創始者アブラアン-ルイ・ブレゲ考案の超複雑機構を飾るブレゲブルーのダイヤルは、高温で焼成するグラン・フー・エナメルによるもの。
ダイヤルのゴールドプレートに釉薬をかけ、約800℃の高温に熱された炉で、目指す色が得られるまで繰り返し焼き上げる。最後の工程で磨きを入れることで平滑で美しいブルーダイヤルが生まれるのだ。この作業は、自社に設けたエナメル専門の工房が行う。
匠の技の存続がブランドの価値を高めることがよくわかる一本といえよう。
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