クロノグラフ好き必見! ミリタリーの歴史と共に進化した手巻きレア・クロノ7選
第二次世界大戦を境に、課せられた軍務を遂行するためにクロノグラフは劇的な進化を遂げ、腕時計の発展に大きく寄与したことは歴史が証明済み。

各国の軍隊が威信をかけて製造した在りし日の傑作は、ヴィンテージウォッチとして、今もなお色褪せない輝きを放つ。
今回は、数々の武勇伝を持つ手巻きクロノをピック。
1.ハミルトン イギリス空軍 6BB クロノグラフ
一概には言えないが、1940~1950年代のクロノグラフの大半は防水面で大きな課題を残していた。
実際に、当時のスナップバック式のクロノグラフを汗ばむ季節に着用すると、故障に繋がることがあるので注意が必要だ。

それゆえ、ヴィンテージウォッチを愛用する多くのユーザーが、実用的な防水仕様のケースに注目していることにも頷けるだろう。
1970年代にイギリス空軍に納入されたハミルトンのクロノグラフを例に取ってみよう。
第二次世界大戦前後のクロノグラフと、その数十年後に生まれたこのモデルとの大きな違いは、テンションリングが入った防水型風防にある。言うまでもなく、防水性能の向上を目的に採用したものだ。

搭載されたムーブメント「Cal.7733」は、メンテナンスを怠らなければ、普段使いで活躍する十分な精度を保つ。
2.ゼニス イタリア空軍 A.M.I. TIPO CP-2 クロノグラフ
復刻版でご存知の方もいるかと思うが、クロノグラフの名門ゼニスには名機「エル・プリメロ」誕生以前、1960年代後半にイタリア空軍に納品していた伝説的なクロノグラフが存在する。
「TIPO CP-2」とはモデル名を指すもので、ゼニス以外にもいくつかのブランドが支給している。

ゼニスの製造数に関しては、約2500本だと言われているが、すべての時計をイタリア軍が納入しなかったことから、そのうちの何割かが一般市場に流通したという背景が興味深い。
この個体は実際にイタリア空軍に支給されたもので、その証拠に裏蓋には、イタリア空軍を表す「A.M.I.(Aeronautica Militare Italiana)」と「M.M. (Matricola Militare)」の刻印が入る。

搭載された「Cal.146DP」は、ユニバーサル社のベースムーブメントを基盤に、ゼニスとモバードが共同開発したもの。その血脈は、不世出の自動巻きムーブメント「エル・プリメロ」に受け継がれている。
3.ヴィクサ フランス空軍 タイプ20 フライバッククロノグラフ
「マーク11」に次ぐミリタリーウォッチの超人気モデル「タイプ20」から、フランスの時計メーカー・ヴィクサの名品を紹介したい。
「タイプ20」の納入が始まったのは、1954年。こちらの個体は同年に支給された最初期タイプだ。

製造数は4000~5000本ほどで決して少なくはないが、良質な個体を探すとなると、少々骨が折れる可能性あり。
ヴィクサ版「タイプ20」は、きめ細かいコインエッジベゼル、円柱状のシリンダーケースなどの、ヴィンテージウォッチらしい見所が満載。

裏蓋のマーキングも実に味わい深い。「5100 54」はヴィクサの契約番号と契約年、「P」はフランス軍が契約していたパリの航空時計修理専門工房「ペショワン」に送られたことを示している。
4.ロダニア カナダ空軍 RCAF クロノグラフ
RCAF(ロイヤル カナディアン エアフォース)のワンプッシュクロノグラフは、同一のスペックでオメガやブライトリングらの有名ブランドも製造していたことで知られているが、ロダニア製のモデルは少々毛色が違う。

ブランドネームやモデル名が一切入らない文字盤に目が止まる一方、ユニークな機能まで備えているのだから二度驚く。
タネを明かすと、このモデルが持つ特殊機能とは、リュウズを引くことで秒針を停止するハック機能が作用することで、2つのプッシュボタンを備えたクロノグラフとほぼ同じ操作ができる点にある。

なお、製造数は約8000本と決して少なくはないが、そのうちラジウムの夜光を使用していた3000本ほどをカナダ空軍が処分したこともあり、稀少性はかなり高い。
5.レマニア スウェーデン空軍 Tg195 ブラックミラーダイアル
ミリタリーウォッチの超名門レマニアの数ある時計のなかでも、スウェーデン軍の「Tg195」と呼ばれる特殊モデルは別格の人気を誇る。

一見すると、3針モデルにも見える「Tg195」だが、2時位置にハック機能を担うプッシュボタンを確認することができる。
秒針を止めるハック機能を取り入れる目的のためだけに、クロノグラフの専用ムーブメントを搭載するというイレギュラーな設計からも、この軍用時計がいかに特別な存在であったかが見て取れる。

「スリークラウン」のマーキングからも察するに、このクロノグラフには、ミッションを達成するための機能とともに、スウェーデン空軍の誇りが込められているのだろう。
6.ハンハルト ドイツ海軍 砲兵部隊 クロノグラフ
1940年代頃の機械式時計は装飾的なデザインが多く見受けられ、それはクロノグラフも然り。ただし、軍用時計となれば、この話は当てはまらない。と言いたいところだが、例外もある。
現在は復刻モデルを展開する、ハンハルトのドイツ海軍砲兵部隊用のクロノグラフが、まさにそれなのだ。

渦巻状のタキメーターを備える軍用時計は、あらゆる年代を通じて、このモデルのみだと言われ、レア度も群を抜いている。

正直、出会えるチャンスは稀。でも、だからこそ膨らむ夢や期待が、ヴィンテージウォッチの世界にはあるのだ。
7.ギャレット スイス空軍 クロノグラフ フライングオフィサー
世界初のワールドタイムとクロノグラフの融合に成功したギャレットの「フライングオフィサー」の記念すべきファーストモデルの登場は、1940年代まで遡る。

その後、時代と寄り添いながら進化し続けることで、長期にわたって製造された不朽の名作は、軍用時計としての顔も持っている。
1970年代にスイス空軍に納入されたモデルは、この時代らしいフューチャリスティックなテイストがどことなく漂う。

防水仕様のケースであることに加え、収まりがよい36.5mm径のケースサイズと、人気モデルの条件を満たしている。
さまざまなバックグラウンドを持つ名品が並ぶ、軍用クロノグラフの世界。オーナーが自身の物語を綴ることで、その味わいはさらに深みを増していくはずに違いない。
[取材協力]
キュリオスキュリオ
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※本文中における素材の略称:SS=ステンレススチール
戸叶庸之=編集・文