アナデジ、漢字、TOKYO1964。国産時計の名作復刻3本の、知って楽しいヒストリー
いまや国産時計への世界的な評価と躍進が目覚ましい。
それもクオーツや最新のGPSソーラーといったハイテク分野だけでなく、伝統的な時計技術を注ぐ高級時計においてもだ。
復刻時計はそんな国産の努力の歴史を辿ることができる。かつて世界を目指した熱い情熱や日本独自の美意識を感じる時計は、腕につけることでどこか気持ちも晴れがましくなるだろう。
TOKYO1964、日本の熱量

SEIKO(セイコー)/プレザージュ SARX069
復刻時計の定義は、単にオリジナルモデルを忠実に再現するだけに限らない。
ときにはオリジナルのコンセプトやスタイル、デザインを換骨奪胎することで、あらためて現代にその価値が再評価されるだろう。そうした歴史を掘り起こすとともに、時代の感性によって新たな解釈をしてこそ復刻する意義もある。
1964年の東京オリンピックでは日本のセイコーが初の公式計時を担当し、このとき開発された「クラウン クロノグラフ」は、ストップウォッチ機能を備えた国産初の腕時計になった。その歴史へのオマージュを込めて、デザインを復刻したのが「プレザージュ SARX069」だ。
シンプルなワンプッシュクロノグラフだったオリジナルに対し、クロノグラフ機構を省くものの、60分積算のできる回転式ベゼルに、バーインデックスと数字の併記と、1/6秒を刻んだ精細なスケールを受け継ぐ。
スポーティさが際立つ3針スタイルからは、世界を舞台に競技を支え、高精度の計時を追求した当時のセイコーの矜持が漂う。
ジャパニーズハイテクウォッチ

CITIZEN(シチズン)/アナデジテンプ
国産時計のアドバンテージに、ハイテク技術に裏付けられた高性能がある。日本の技術は、1970年代以降クオーツを牽引し、ソーラー駆動やGPS電波受信など今も世界をリードする。
なかでも’80年代にかけては多機能化が目覚ましく、それも電子計算機や録音、さらにTVといった時計の概念を超えたSFの世界を具現化し、現代のスマートウォッチを予見させたのである。
シチズンは1980年にアナログとデジタルの計時を国産で初めて併設。その進化形である1982年発表の「アナデジテンプ」を復刻した。

通常の時刻のほか、クロノグラフ、アラーム、カレンダーに加え、気温も表示する。ロボットの顔を思わせるような個性的なフェイスは、海外でも大ヒットし、ジャパニーズハイテクウォッチを知らしめたのだ。
最近では映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でシチズンの“ツノクロノ”が再び脚光を浴びるなど、シチズンには復刻を待つお宝がまだまだ眠っている。
漢字という矜恃

ORIENT(オリエント)/ウィークリーオートオリエントキングダイバー
オリエントブランドは、多摩計器を前身に1950年に誕生し、個性的なデザインやユニークな機構で知られる。
ビザールギターにも通じるマニアックなモデルは多くの時計愛好家を魅了し、2017年のセイコーエプソンとの業務統合後も独自の路線を貫く。
誕生70周年になる今年、1965年に発表した「ウィークリーオートオリエントキングダイバー」を復刻した。ケースサイドには、通常の巻き上げや時刻合わせに使うリュウズに加え、内蔵した回転ベゼルを操作するリュウズを設ける。
もうひとつの特徴が、日付を表示する小窓と、日本語表記の曜日カレンダーを備えていることだ。さらにその上の22石の表示も、石数で高級を競った当時を彷彿とさせる。
初代のデザインをほぼ忠実に再現しつつ、防水性能は40mから20気圧に向上し、信頼性や品質にも最新の技術を注ぎ、現代的な実用性に応える。手にすれば、世界を目指し、若々しさとバイタリティを発揮した国産時計の時代が甦るだろう。
「豊作、復刻時計」とは……
2020年は、さまざまなブランドから復刻時計が大豊作。我々が生まれる前に作られたヘリテージモデルから、懐かしい’90年代のあのモデルまで、見た目も気分も昔に巻き戻してくれそうな良質復刻時計をご紹介。上に戻る
柴田 充=文