豊作、復刻時計 Vol.4
2020.05.26
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時計界の散財王を目指す編集者が「オリジナルを持ってるのに買いたい」復刻時計

「豊作、復刻時計」とは……

今、復刻時計が注目に値する理由を語ってもらった前回に続き、オーシャンズwebの「時器放談」でも論客をお願いした「時計界の散財王に、俺はなる」が口癖の編集者、安藤夏樹さんによる、買って損なし!な復刻時計たち。

[筆者紹介]
エディター 安藤夏樹さん
1975年、愛知県生まれ。ラグジュアリー雑誌の編集を務めたのち、現在はフリーの編集、ライターとして活躍。時計だけでなく木彫り熊収集家など、幅広い見識と強い探究心を持つ。

数多い復刻時計の中から、3つモデルを紹介してもらった。

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今年も興味深い復刻時計が数多く発表されている。

ここでは、オリジナルを所有している僕が、実際に手に触れ、本気で買おうか悩んでいるモデルについてご紹介していこう。

 

注目その1
「ハミルトンPSR」

まずは、「ハミルトンPSR」。1970年5月6日に発表された世界初のデジタル時計、「ハミルトン パルサー」の50周年を記念したモデルである。

ハミルトンPSR
ステンレススチール、W40.8×H34.7mm、デジタルクオーツ 9万円/ハミルトン(スウォッチ グループ ジャパン 03-6254-7371)

1970年といえば、未来の車はチューブの中を走るものと誰もが信じていた時代(と推測している。当時、ぼくはまだ5歳)。そして、未来の時計を形にしたのが、まさにこのハミルトン パルサーだった。今回の「ハミルトンPSR」は、そのハミルトン パルサーのセカンドモデル「P2」(1972年発売)をベースに復刻されている。

パッと見の印象は「P2」のそれにかなり近い。本来「Pulsar」のロゴが刻まれていた箇所は、大人の事情で「HAMILTON」となっているが、選ばれたフォントも雰囲気を損ねるものではなく、非常に格好良し。ケースやブレスに関しては、デザインはオリジナルに忠実な一方で、質感はより向上している印象だ。

そして、何よりのキモである時刻表示部分の完成度が高い。オリジナルのハミルトン パルサーはLEDを使って表示していたため、消費電力の関係からプッシュボタンを押さないことには時刻を確認することができなかった。今回の「PSR」では、液晶ディスプレイと有機EL(OLED)とを組み合わせることで、ボタンを押したときにLEDにかなり近い印象で赤く輝くのに加え(しかも、P2と同様に数字はドットだ!)、液晶によりボタンを押さなくても薄っすらと時刻を知ることができる。

ヴィンテージのハミルトン パルサーはムーブメントがナイーブで修理も難しいため、誰もが日常で気兼ねなく使える存在とは言い難い。その点、ガンガン使える「ハミルトンPSR」は最良の選択になるだろう。

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注目その2
「ブライトリング AVI Ref.765 1953 リ・エディション」

続いて、「ブライトリング AVI Ref.765 1953 リ・エディション」。この時計の元ネタは、コレクターズアイテムとして知られる名機。

僕自身、ディテール違いのオリジナルを所有しているけれど、インスタに写真を載せたとき、国内外の時計愛好家から「売り物?」「いくら?」と聞かれることが最も多い時計のひとつだ。

「ブライトリング AVI Ref.765 1953 リ・エディション」ステンレススチール、41mm径、機械式手巻き 90万円/ブライトリング(ブライトリング・ジャパン 03-3436-0011)

実際に手に取った印象はまさに「よくできている」というのに尽きる。

マット仕上げの文字盤の質感も、程良く褪色した雰囲気のインデックスも、見事なまでに世界観を作り上げている。オリジナルと比べると若干ベゼルが厚い気がしないでもないが、SSモデルを腕にしていたら、見た人にはその区別がつかないのではないだろうか。

ブライトリングは、2017年にジョージ・カーンがCEOに就任すると、ヴィンテージコレクターであるフレッド・マンデルバウムを招聘。歴史的モデルの研究に力を入れている。

マニアも納得する復刻版を生み出すことができるのも、そうした背景があってこそである。

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注目その3
「セイコー メカニカルダイバーズ 復刻デザイン」

最後にセイコーの名作ダイバーズウォッチの復刻を。現在もダイバーズウォッチの分野では世界的に高い評価を得ているセイコーだが、その原点は1965年のファーストモデルにある。

セイコーダイバーズ 55周年の記念モデルとして発表された3モデル。左から「SBEX009(6月発売予定)」「SBEX011(7月発売予定)」「SBDX035(8月発売予定)」。詳細は下記。 ※発売日は変更となる可能性があります。

発表から55周年となる今年、ファーストモデル(上の写真の「SBEX009」)を含むレジェンドダイバー3種を「メカニカルダイバーズ 復刻デザイン」という形で発表した。

この復刻のエラいところは、オリジナルの世界観はしっかりと守りつつ、適度に今っぽさを上手に取り入れているところにある。まずはなんとも言えない文字盤とバンドの色味。オリジナルではブラックだったが、今回は品のいいブルーグレーが採用され、程良いアクセントになっている。オリジナルを持っていても、カラバリとして欲しくなる。

「SBDX035」ベゼル部:エバーブリリアントスチール、胴部:純チタン、プロテクター部:セラミックス、52.4mm径、自動巻き、世界限定1100本 45万円/セイコー プロスペックス(セイコーウオッチ 0120-061-012)

ケース素材には、腕時計では初めて、エバーブリリアントスチールが用いられた。この素材はステンレススチールを上回る耐腐食性を持つことで知られている。

ストラップ素材には現代のダイバーズウォッチの主流である強化シリコンを採用しているが、デザイン面でファーストモデルに本来つくべき「トロピックバンド」(ファブリック調のラバーバンド)を再現している辺りがニクい。こうした女子からしたらどうでもいいような部分に手を抜かない姿勢こそが、モノに力を与えるのだ。

「SBEX009」エバーブリリアントスチール、39.9mm径、自動巻き、世界限定1100本 65万円/セイコー プロスペックス(セイコーウオッチ 0120-061-012)

ちなみに、オリジナルのセイコー ファーストダイバーといえば、万人の憧れ、フーテンの寅こと車寅次郎の初期の愛用機であることを忘れてはならない。

寅さんはトロピックバンドをブレスレットに替えて使うことで、スポーティさを適度に抑えつつ、軽快洒脱な人間像を印象付けていた。

「SBEX011」エバーブリリアントスチール、44.8mm径、自動巻き、世界限定1100本 70万円/セイコー プロスペックス(セイコーウオッチ 0120-061-012)

稀代の洒落者としても知られる渥美 清さんが今生きていたならば、このブルーグレー文字盤を見てどう思うだろうか。きっと悔しさのあまりこう言うに違いない。

あの名シーンになぞらえて「わけを聞こうじゃねえか」と。

「豊作、復刻時計」とは……
2020年は、さまざまなブランドから復刻時計が大豊作。我々が生まれる前に作られたヘリテージモデルから、懐かしい’90年代のあのモデルまで、見た目も気分も昔に巻き戻してくれそうな良質復刻時計をご紹介。上に戻る

安藤夏樹=文

# 安藤夏樹# 復刻時計
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