ジウジアーロが筆頭。「デザインが面白い」押さえておくべき腕時計
知っているようで意外と知らないカジュアルウォッチの世界。“時計界の散在王”ことエディターの安藤夏樹さんに、カジュアルウォッチの楽しみ方を聞いた前回のインタビュー。
今回、安藤さんに聞くのは「デザインを楽しむカジュアルウォッチ」について。
![]() | [教えてくれたのはこの人] エディター 安藤夏樹さん 1975年、愛知県生まれ。ラグジュアリー雑誌の編集を務めたのち、現在はフリーの編集、ライターとして活躍。時計だけでなく木彫り熊収集家など、幅広い見識と強い探究心を持つ。 |
知って楽しいジウジアーロデザインの腕時計
いきなりだが「デザイン=見た目の格好良さの話」ではない。パッと見のビジュアルはもちろんだが、それ以上に、着用者のライフスタイルや使い勝手など、プロダクトとしてすべての側面でいかに考えられているか。
安藤さんのオススメする「デザインが面白い」カジュアルウォッチも、その点で実にユニークなモデルばかりだ。

「まずはセイコーのジウジアーロデザインの時計です。ルックスだけでなく、機能までしっかりデザインされた時計の代表格ですね。
オリジナルは1983年から作られ始めましたが、当時は時計に限らず、日本のプロダクトを海外のトップデザイナーが手掛ける、いわば“外タレデザイン”全盛期。なかでもジウジアーロの時計は非常に人気が高く、現在売られている復刻版も好調のようです」。
ジウジアーロとは、車をはじめさまざまなプロダクトをデザインするイタリアを代表するデザイナー、ジョルジェット・ジウジアーロのことで、特に有名な車以外にも、時計をはじめ多くの分野で傑作を残した超大物だ。1981年には自身の会社、ジウジアーロ・デザインを設立し、世界各国で腕を振るった。

セイコーとのコラボレーションも多く残し、運転中にドライバーが時刻を見やすいようにダイヤルを斜めに設計したモデル(写真上)など、傑作揃いだ。
「やはり、ジウジアーロは総合的に見て美しいですね。車の運転を想定したデザインも特徴で、シャツの袖口に文字盤が隠れてしまわないようにあえてケースをベルトの中心からズラした1本(写真下、いちばん右側)なども彼らしい」。

「ベルトを引っ張って伸ばすタイプ(写真上、左から3番目)は、ジウジアーロが作ったなかでも特に稀少性の高いモデル。これに限ってはまだ復刻されていません。今まで何度も復刻されてきたジウジアーロデザインの時計たちですが、オリジナルと復刻では細かい仕様が異なるほか、同じ復刻版でもバージョンによって微妙に違うのも、また楽しいポイントです」。
「例えば、ケース3時側に設けられたバーの上下にクロノグラフのプッシュボタンを装着したモデル(写真上)。ドライビンググローブをしたままでも操作しやすいためのデザインですが、オリジナル版はプッシュボタンがプラスチックで作られています。ただ、実はこれが壊れやすかった(笑)。復刻版はその点を踏まえ、メタルパーツでできています」。
そんな細かいディテールまで全部ひっくるめて、優れたデザインは形作られる。では、ジウジアーロ以外のオススメも教えていただこう。
ロジェ・タロンにマーク・ニューソン……
いいデザインを生むデザイナーたち
「世界的なプロダクトデザイナーが担当したカジュアルウォッチでいうなら、BRAUN(ブラウン)やLip(リップ)もハズせません。前者は、バウハウスの流れを汲んだシンプルデザインが潔いドイツブランド。フランス生まれの後者は、より楽しげな印象です」。

ブラウンのデザインを確立したのが、ディーター・ラムス。オーディオなどで多くの名作を残し、数は少ないが腕時計のデザインも行う。“Less,but better(より少ない、しかしより良く)”との言葉通り、機能に即したシンプルなデザインが特徴だ。
「ラムスはアップルのデザイナー、ジョナサン・アイブにも大きな影響を与えた人物。彼のデザインしたデジタル時計は極めてシンプルですが、まったく飽きることがありません」。
一方のリップは1867年、フランスの時計製造の心臓部と謳われるブサンソンにて創業。かのナポレオンにも贈呈されるなどクラシックな時計作りを継承する反面、ユニークデザインの開発にも熱を入れ、1975年には左右非対称デザインの傑作、マッハ2000を生み出している。

「マッハ2000(写真上、中央)は、フランスの新幹線TGVのデザインも担当したロジェ・タロンの作品。ニューヨーク近代博物館(MoMA)にも飾られるほど、評価の高い時計です。当時リップは、他業界から優秀なデザイナーを呼んで新しい時計作りを始めましたが、その最大の成果がマッハ2000の完成だと思います。
復刻もされていますが、個人的にはやっぱりオリジナルが好み。僕は持っていませんが、手巻きのクロノグラフは最高です。写真のはそれに似せて作ったクォーツモデル。一見クロノのようですが、実はカレンダーとムーンフフェイズになっていて、上下のボタンはダミーなんです」。
ほかにも、アップル製品で知られるマーク・ニューソンによるイデーの時計や、彼とオリバー・アイクのコラボプロジェクトであるアイクポッドなどを推薦してくれた安藤さん。また、セイコーのシャリオも、コンパクトサイズながらに大きな存在感を示すという。

「シャリオは’80年代にリリースされた薄型の三針モデルで、完成度の高いミニマルデザインが特徴です。スティーブ・ジョブズが愛用していた時計としても有名ですね。3年ほど前に復刻されましたが、速攻で売り切れてしまったとか。やはり、年を経ても優れたものの求心力は変わらないんですね」。
完成されたデザインは、時代を経ても価値が変わらない。むしろその稀少性から、今後のさらなる高騰も予想できる。
そういう意味でも“デザインが面白い”のカジュアルウォッチは、大人にとって再考すべき時計と言えそうだ。次回は、カジュアルウォッチを楽しむもうひとつの視点「ギミックが楽しい時計」を安藤さんに紹介してもらう。
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増山直樹=文