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2020.01.08

時計

ヤバいのばっか! 70年代ヴィンテージに見る“非専業”ならではの時計作り

時器放談●マスターピースとされる名作時計の数々。そこから6本を厳選し、そのスゴさを腕時計界の2人の論客、広田雅将と安藤夏樹が言いたい放題、言葉で分解する。番外編となるラストは、ファッションブランドによるヴィンテージ時計をピックアップ。
安藤 ここまで時計専業以外のブランドの時計を見てきましたが、今回は番外編としてヴィンテージに見るファッション時計の世界について少しお話したいと思います。
安藤夏樹(写真左)●1975年、愛知県生まれ。ラグジュアリーマガジンの編集長を経て、現在はフリーに。「SIHH」や「バーゼルワールド」を毎年取材し、常に自分の買うべき時計を探す。口癖は「散財王に俺はなる!」。
広田 おっ、早速変な箱が出てきましたね。これは何ですか?

安藤 ディオールが1970年代初頭に販売したレディスウォッチです。
広田 箱からしてカッコいい!
安藤 ですよね。昔って時計のイメージに合わせて、専用の箱がデザインされることが多かったから。
広田 現代の時計はどれも立派な箱に入っているけど、面白味は少ないんだよなー。
安藤 箱のデザインもさることながら、時計自体もとっても面白いですよ。これは比較的シンプルな形をしていますが、もっとパンチの効いたデザインのもあるんですよね、当時のディオールは。
シンプルなのに、インパクトあるデザインは、出来そうでなかなかできない。
広田 文字盤にブローバとありますね。
安藤 そう! 当時のディオールの時計はブローバが手掛けていたんですよー。だからこの頃の時計はブローバ・ディオールと呼ばれています。
広田 今と違って、非時計専業ブランドが自ら時計を作る技術はなかった時代ですから、専業とのコラボが基本でしたよね。
広田雅将●1974年、大阪府生まれ。腕時計専門誌「クロノス」編集長。腕時計ブランドや専門店で講演会なども行う業界のご意見番である。その知識の豊富さから、付いたあだ名は「ハカセ」。
安藤 当時のファッションウォッチを見ても、製造した時計ブランドの名前が出ていないものも多い。でも、ディオールはあえてブローバ名を前面に出している。これはブローバが当時それだけ勢いを持っていたからじゃないかと思います。実際、当時、音叉時計のアキュトロンなんかも出してたし、最先端ブランドだったはずです。
広田 確かに。ほかにもコラボを前面に出しているブランドってあるんでしょうか?
ヤバいデザインの時計が載った資料本もテーブルに。
安藤 このピエール・カルダンなんかどうでしょう? 機械はジャガー製で、裏蓋にはその記載があります。
広田 ジャガー・ルクルトですか! すげえいい! 好きです、こういう少し頭おかしい時計(笑)。
安藤 この時計が作られた70年代はスペースエイジ・デザイン全盛の時代ですから。その主人公のひとりだったカルダンらしいデザインですよね。
素材使い、色使い、形。すべてがぶっ飛んでいるピエール・カルダン。
広田 ケースはアクリル製ですか?
安藤 そうです。これ以外にもヤバいのがあるんです、この頃のピエール・カルダンには。ただ、もともとがレディスだからだと思うんですが、バンドが短いのが難点。ギリギリ腕にははまるんですが、パツパツで……。
広田 それ、するんだ(笑)!
安藤 ときどきしてますよ。シンプルなシャツなんかに合わせるとけっこういい。多少クセが強くても、時計って小さいからそんなにふざけた印象にもならないです。時計で悪印象を与えるのって、デザインの遊びよりも、嫌みな高級感にあると思うんです。
広田 確かにそうかも。


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