時器放談 Vol.17
2020.01.08
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ヤバいのばっか! 70年代ヴィンテージに見る“非専業”ならではの時計作り

時器放談●マスターピースとされる名作時計の数々。そこから6本を厳選し、そのスゴさを腕時計界の2人の論客、広田雅将と安藤夏樹が言いたい放題、言葉で分解する。番外編となるラストは、ファッションブランドによるヴィンテージ時計をピックアップ。

安藤 ここまで時計専業以外のブランドの時計を見てきましたが、今回は番外編としてヴィンテージに見るファッション時計の世界について少しお話したいと思います。

安藤夏樹(写真左)●1975年、愛知県生まれ。ラグジュアリーマガジンの編集長を経て、現在はフリーに。「SIHH」や「バーゼルワールド」を毎年取材し、常に自分の買うべき時計を探す。口癖は「散財王に俺はなる!」。

広田 おっ、早速変な箱が出てきましたね。これは何ですか?

安藤 ディオールが1970年代初頭に販売したレディスウォッチです。

広田 箱からしてカッコいい!

安藤 ですよね。昔って時計のイメージに合わせて、専用の箱がデザインされることが多かったから。

広田 現代の時計はどれも立派な箱に入っているけど、面白味は少ないんだよなー。

安藤 箱のデザインもさることながら、時計自体もとっても面白いですよ。これは比較的シンプルな形をしていますが、もっとパンチの効いたデザインのもあるんですよね、当時のディオールは。

シンプルなのに、インパクトあるデザインは、出来そうでなかなかできない。

広田 文字盤にブローバとありますね。

安藤 そう! 当時のディオールの時計はブローバが手掛けていたんですよー。だからこの頃の時計はブローバ・ディオールと呼ばれています。

広田 今と違って、非時計専業ブランドが自ら時計を作る技術はなかった時代ですから、専業とのコラボが基本でしたよね。

広田雅将●1974年、大阪府生まれ。腕時計専門誌「クロノス」編集長。腕時計ブランドや専門店で講演会なども行う業界のご意見番である。その知識の豊富さから、付いたあだ名は「ハカセ」。

安藤 当時のファッションウォッチを見ても、製造した時計ブランドの名前が出ていないものも多い。でも、ディオールはあえてブローバ名を前面に出している。これはブローバが当時それだけ勢いを持っていたからじゃないかと思います。実際、当時、音叉時計のアキュトロンなんかも出してたし、最先端ブランドだったはずです。

広田 確かに。ほかにもコラボを前面に出しているブランドってあるんでしょうか?

ヤバいデザインの時計が載った資料本もテーブルに。

安藤 このピエール・カルダンなんかどうでしょう? 機械はジャガー製で、裏蓋にはその記載があります。

広田 ジャガー・ルクルトですか! すげえいい! 好きです、こういう少し頭おかしい時計(笑)。

安藤 この時計が作られた70年代はスペースエイジ・デザイン全盛の時代ですから。その主人公のひとりだったカルダンらしいデザインですよね。

素材使い、色使い、形。すべてがぶっ飛んでいるピエール・カルダン。

広田 ケースはアクリル製ですか?

安藤 そうです。これ以外にもヤバいのがあるんです、この頃のピエール・カルダンには。ただ、もともとがレディスだからだと思うんですが、バンドが短いのが難点。ギリギリ腕にははまるんですが、パツパツで……。

広田 それ、するんだ(笑)!

安藤 ときどきしてますよ。シンプルなシャツなんかに合わせるとけっこういい。多少クセが強くても、時計って小さいからそんなにふざけた印象にもならないです。時計で悪印象を与えるのって、デザインの遊びよりも、嫌みな高級感にあると思うんです。

広田 確かにそうかも。

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時器放談、言いたい放題で総まとめ

広田 それにしても、やっぱり楽しいですよね、こういう時計は。最近はぶっ飛んだデザインの時計を作るところが本当に少なくなりました。

まるでUFOなランバンの時計。

安藤 現代だとグッチくらいしか頭に思い浮かばないけど、70年代はいろいろありましたよねー。ほかにもピエール・バルマンとか。このランバンのもすごくイカしてます。ムーブメントはフランスのLIP社が製造した電磁テンプ式を載せていて、まさにほとばしる近未来感!

広田 バングルになってるんだー。これもするんですか?

安藤 もちろん。電磁テンプ式だから時間はよく狂うけど、まぁアクセサリーみたいなもんですから。

広田 いつくらいからかなぁ、こういう時計が絶滅したのは。

安藤さんのインスタグラムにも登場したポール・スミスの時計。

安藤 実際にはつい最近まであったと思います。少なくとも10年くらい前までは。ジャン=ポール・ゴルチェなんか、とんでもないのを作ってましたよ。あとは何と言ってもポール・スミスですかね。ポールさんは自身が腕時計をコレクションしていたこともあって、当初は変なのをたくさん作ってました。ピエール・カルダンの影響を明らかに受けてるなってのもあったし。

広田 でも最近はポール・スミスもいかにも「時計らしい時計」を出してますよね。

安藤 機械式をやり始めたくらいからですかね、マジメ路線に移ったのは。僕的にはクオーツでいいからもっと「ポール・スミスらしい時計」を作ってもらいたいんですけど。

広田 最近はコネクティッドウォッチ系を出しているブランドもあるけど、同じプラットフォームを複数のブランドが使うケースもありますよね。

安藤 そう。あれも楽しくないなぁ。以前の回で広田さんがおっしゃってましたが、非時計専業ブランドの時計の良さって、その時計のためだけにパーツから作るところにあるわけじゃないですか。それを自ら否定しちゃダメだと思うんです。自分たちの世界観を表現するのに最大限の努力を払うってのがいいんだから。

広田 ですです。

まさに言いたい放題で、夜は更けていく。

安藤 非専業ブランドは、今や時計専業と競り合えるところまでの技術力を持っている。実際、バーゼル・ワールドなんかに行っても、時計好きがシャネルやブルガリの時計を普通にしてますよね?

広田 そうですね。そのあたりの時計はすでに「鉄板ちゃん」って感じですね。

安藤 それはとっても凄いことだと思うんです。だけど、ラグジュアリー系のブランドにはそれ以外にももっと楽しい提案をしてほしい。

広田 ひと通り能力を得たブランドが、今後遊ぶ方向に振ってくるのかもしれないな、という気がしてますけどね。

安藤 そうあってくれたら嬉しいな。非専業にしか作れない時計作りってのは絶対にあるはず。そういうのがなくなっちゃうと、時計業界全体の厚みみたいなものがなくなってしまう気がします。というわけで、最後が愚痴っぽくなりましたが、この対談もこれでおしまい。長らくのご清聴ありがとうございました。また、いつかお会いしましょう。

 

関 竜太=写真 いなもあきこ=文

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